週刊PONTE vol.187 2022/06/27

=== PONTE Weekly ==========
週刊PONTE vol.187 2022/06/27
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PONTEは、ジャグリングについて考えるための居場所です。
週刊PONTEでは、人とジャグリングとのかかわりを読むことができます。
毎週月曜日、jugglingponte.comが発行しています。
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◆Contents◆

・青木直哉… ジャグリングで書くこと 第7回 日常を旅にする研究

・寄稿募集のお知らせ

・編集後記

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◆ジャグリングで書くこと◆
第7回 日常を旅にする研究
文・青木直哉

旅をしているとき、朝起きて一番に感じる独特の感覚があります。
具体的には、「僕はこれから一日、知らなかったものに出会い、人と交流し、違う風をすいこみ、たくさんの楽しい経験をしたあと、疲れた身体で宿に帰ってまたベッドに潜るんだな……」という素敵な予感です。いいものです。
でも、これと似たような感覚は、日常でも感じることが可能なんじゃないか、と最近考えています。実際、いま僕は旅をしていないのに、そういう感覚に近いものを感じているからです。これを書いているのは、近所のカフェです。家からバイクで10分です。でもここに来て、席に座って、コーヒーとトーストを注文して、机に道具を広げた途端、僕は遠く旅先にいるのと同じような感覚になるのです。
なぜ、家からそう離れていない場所で旅を感じられるのでしょう。

一つには、このカフェがそういう作りだから、ということがあります。旅の朝のような感覚を与える作りになっているのです。このカフェチェーンのウェブサイトにも、「高原リゾートをイメージした店内」と書いてあります。まさに、高原のホテルの朝食会場のような雰囲気です。僕が今座っている席の真後ろにある厨房から、料理を作ったり、コーヒーを淹れたりする音が聞こえます。スタッフの人たちがきちっとしたホテルの給仕のような格好をしています。かかっている音楽がおっとりしたインストゥルメンタルです。木彫りの動物が横にいます。そういう要素が重なり合って、周囲の環境がまるで「旅の出発の朝」のように作り込まれているのです。
まるで「遠い旅先に来たかのような」環境を用意されることで、人は日常の中でも旅を感じる。これは、わかりやすい。
でも一方で、そのような環境がなくても、旅を感じることはできるはずなんじゃないか。僕はそう直感しています。旅は、遠くにいると感じ「やすい」。でも遠くに行かないと「感じられない」ものではない。
というわけで、「日常を旅にする方法」について真剣に検討してみます。

まず、「旅」という概念がぼんやりしているので、僕が「旅」という言葉を使うときに、心の中に浮かぶ風景について書いてみます。そしてそれが「旅」である、と仮定しましょう。
今、季節は夏です。外はとても暑いです。僕は夏が大好きです。夏は僕にとって「旅」の季節です。以前は、毎年夏になると、ヨーロッパに一ヶ月滞在していました。ジャグラーの友達の家に泊めてもらい、テント泊をしながら、ジャグリングのフェスティバルをはしごしていました。コンクリートから熱が立ち上がり、かげろうが見えるような暑い季節になると、いつもその毎年の旅のことを思い出します。また、肌が湿気を感じ、植物の匂いがぷんと鼻の奥をついたときには、シンガポールに一ヶ月ほど滞在した時のことも思い出します。かつての記憶が呼びおこされます。
外的な要因をきっかけにして、過去に経験した、日常とは違う風景の記憶が呼び起こされるときがあります。そのときに頭の中に去来している懐かしさ、心温まる感じ、人との喜ばしい交流の記憶、それが僕にとっての「旅」の表象です。
つまり「日常を旅にしたい」というステートメントは、「新しい景色の中で心温まる体験をした時に感じる質感を、外に出ないでも感じたい」という宣言とイコールです。
これだったら、実現できそうです。
「懐かしい感じ」を、新しい景色の中で見つけること。これこそが旅の本質ではないかと思うわけです。すると今度は、懐かしいってなんだ、新しい景色ってなんだ、ということになってきます。次に研究すべき対象が見えてきました。僕はこのテーマについてどんどん掘り下げていきたいです。
「とりっぴファイ(Tripify)」という雑誌、フリーペーパーみたいなものを作りたいです。「ひびを、たびに。」なんてキャッチコピーでね。楽しそうです。でも今webで調べたら、そういう名前のサービスが既にあったので名前は変えるかもしれません。まぁ、名前はいいとして、何かしら、「日常でも作り出せる、新しい風景と懐かしさ」について、実験や考察をしていくメディアを作りたい。
いや、しかしこう書いてみて気づいたのですが、「ジャグリング旅のエッセイを書く」ということは、実は、日常を旅にするための実験だったのかもしれません。結局、そもそもPONTEでやりたかったことが、それなのかもしれません。旅のことを思い出している間は、僕は旅にいるのと同じような感覚になれるから、その時間を少しでも引き伸ばすためにやっていたのかもしれません。
ただ単に旅のことを「頭で思い出す」だけでは、その質感はふわふわとしていて、長続きしません。この感触を再現し、さらに持続性を持つ装置として、エッセイという形に昇華するのです。それは、手にとって読める形になる、ということでもあり、何より、頭の中にあるふわふわした感触を文字列にする過程で、よりくっきりとした「新しい景色」を作り出せるということでもあります。書かれた文章は、僕の記憶から生み出されたものですが、その組み合わせが新しいので、僕にとっては新しい景色です。そしてそこに書かれた思い出は、とても懐かしいものです。愛を感じます。尻尾を振って「なつきたい」ものです。
うーん、なんだか考えがまとまらなくなってきました。でも、何か大事なことの尻尾を掴んだような気もします。ひとまず今週はこれまで。

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☆PM Jugglingのnoteを勝手に紹介☆
深夜バス
https://note.com/daigoitatsu/n/na5e00168c2cc
「年相応のジャグリング旅ができるよう、仕事をがんばりましょう。」
(記事本文より)
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◆寄稿募集のお知らせ◆

週刊PONTEに載せる原稿を募集します。
800字以内でお書きください。
編集長による査読を経たのち掲載。
掲載の場合は、宣伝したいことがあればしていただけます。
投稿・質問は mag@jugglingponte.com まで。
締め切りは、毎週金曜日の23:59です。

◆編集後記◆ 文・青木直哉

-新刊『ジャグラーのぼうけん』、先週から10冊増えて、70冊が売り切れました。また追加で10冊仕入れました。やっぱり、馴染みの居酒屋で隣になった人に売れています。購入はこちらから。https://store.jugglingponte.com

また来週。

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発行者:青木直哉 (PONTE)

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