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日記

  • 9月18日(水)

     徳島3日目の夜。部屋には誰もいない。玄関側の奥の部屋では、アルットゥとスティナが寝ている。ボウはドアを一つ隔てた向こうの部屋で、布団に寝転がり、ドイツに電話をかけている。僕はリビングのテーブルで文章を書いている。日本にいる友人に連絡しようとして、時差は何時間だっけ、と考えた。

     ……ああ、違う違う。今は日本だ。

     今日のメインイベントは、香川への旅。瀬戸内サーカスファクトリーの施設見学と、ジャグラーのお坊さんがいる善照寺の見学。

     朝ラーメンを食べて出発。ボウは、朝から外に出て練習していた。

    「マジで日陰ないね。20分探し回った挙句、ビルの影になってるところ見つけて、ようやく少し練習できたよ、ハハハ」と言っていた。

     今日はだいきちさんの車に乗車。きぞはるさん、大吾さんと4人で日本語でたくさん話す。あの人とあの人とあの人、魂の形が似ているんですよね、ときぞはるさんがコメントした時、この人は時折lすごく本質的なことを端的に言う人だなぁと思った。

     高速に乗って、一路香川にあるサーカスの練習場まで。事前に田中未知子さんや谷口界さんにも連絡をとっていたから、スムーズに見学させてもらえた。廃校になった小学校の体育館。中は冷房もなく、涼しくなるために使用できる機械は、ただ扇風機のみ。

     僕が昔少林寺拳法をやっていた頃の夏合宿の体育館を思い出す。大変だったなぁ、あれ。過酷である。

     器具を置き、吊るすスペースや潤沢なリノ面があるから、それは大きなアドバンテージである。先日パフォーマンスでも使った木製の舞台装置も置いてあった。美しかった。もうアーティストは慣れちゃってて、この装置の上に遠慮なくガンガン登るから心配になっちゃうんですよ、と未知子さんは笑う。でも、それこそ、アーティストとしては、道具/装置と対話している、ということなのだな。

     何かで進歩していくっていうのは、自分で状況を設定して、それに慣れていく、ということの繰り返しだ。すごく単純だ。一生懸命サーカス芸を研究している人たちの姿を見ると、羨ましくなる。あいみさん、吉川健斗くん、とたびたび会っているサーカスアーティストの面々にも会えた。そして今日は界さんとたくさん話した。彼が今取り組んでいる新しいコンセプトが面白くて、思わず色々コメントした。やはり研究だな、研究。1時間くらい、ジャグリングをしたり、話したりした。スティナは日本に来て初めて、エアリアルをやっていた。彼女の第一分野は、エアリアルロープなのである。

     小学校を出たら、次は山一木材へ。ここに、KUMA LABOという素敵なラボラトリー、つまり、色々サーカスの実験をするための空間がある。それを聞いたのはつい最近の話で、いつか行きたいなぁと思っていた。そこに徳島に行く用事ができ、しかもサーカスアーティストが多数一緒だということで、じゃあ香川も行っちゃいましょう、と都合が良かった。巨大な製材所を、木材の合間を抜けて進む。一番突き当たりにそのスタジオがある。玄関で靴を脱いで入る。かまぼこの断面のような形の敷地に立つ建物。床も天井も香りのいい木材でできている。白塗りの壁が一番広い部分で湾曲している。それがそこに立つ人を強く引き立たせる。直線側の方はひらけていて、石段があって、客席のようにも機能するし、あるいはこちら側を舞台として使っても良さそうだ。

     とにかく気持ちがいい空間。ここで孤独になる分にはいいかもしれないなと思った。ここにはいい孤独がある感じがした。

     帰り際、山一木材のKITOKURASというブランドのコースターやなんやを買った。素敵なところだ。

     そこから少し急ぎめで、ジャグラー兄弟がいることで有名な善照寺へ。元々ここの副住職とっしゃんとは、徳島で行われたワールドジャグリングデイで知り合っていて、そのうちお寺にも行ってみたいなぁと思っていたのだった。外国からお客さんが来ているタイミングで行けて、これまた良かった。住職のへんもさんとも初めてお会いする。少し見学をさせてもらって、それから、とっしゃんと縁があるインドカレーの店へ。

     大吾さんはひと足さきに高松空港に向かったのだけど、僕らも後を追いかけるように空港へ。最後の見送り。空港から帰る時、車までアルットゥはスティナをおんぶしていた。アルットゥはヒイ、ヒイ、と大袈裟に声を上げながらのしのし歩く。

     それから、僕は寝ていたからどれだけ時間がかかったのかわからないけど、今度はしおんさんの車で徳島の家まで帰ってきた。銭湯に行きますか、と言われたけど、みんな結構疲れていて、シャワーで済ませることにした。ここできぞはるさんともお別れ。

     アルットゥ、スティナから、今度僕が通訳することになっているサーカスカンパニーのサーカス・シルクールの話をいっぱい聞いた。二人はシルクールの持っているスペースで練習をしているのである。いい話が聞けた。

     それから僕は今、こうして日記を書いているというわけである。

     徳島の滞在、すべてがちょうどいい具合にかっちりハマって、上手い具合にトランクにものを詰められたような気分だった。

今週の「投げないふたり」

PONTEは「旅とことばとジャグリング」をテーマに、ジャグラーの視点から見た世界を発信中。

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