週刊PONTE vol.178 2022/04/11

=== PONTE Weekly ==========
週刊PONTE vol.178 2022/04/11
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PONTEは、ジャグリングについて考えるための居場所です。
週刊PONTEでは、人とジャグリングとのかかわりを読むことができます。
毎週月曜日、jugglingponte.comが発行しています。
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◆Contents◆

・青木直哉/板津大吾…投げないふたり Season2 第12回「もののなまえ」

・寄稿募集のお知らせ

・編集後記

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◆投げないふたり season2◆
話し手・板津大吾(PM Juggling)& 青木直哉
第12回「もののなまえ」

ネット上である投稿を見たことをきっかけに、オンラインで対談。

青木直哉(以下N)
Facebookを見ていたらね、「ロシアンボール」という名称についての議論があったんですよ。

板津大吾(以下D)
自分も見たかも。

N
ざっくり言うと、ロシアンボール、ってロシア関係ないじゃん、という話ですね。いま一般的に使われているロシアンタイプのボールというのは、ウクライナ出身のミハイル・ルデンコさんがウクライナで最初に作ったものが原型、というのが定説なんです。それがウクライナのサーカス学校で広まり、さらにシルク・ドゥ・ソレイユ出演でも有名なジャグラーのヴィクトル・キーが使ったことで、一気に世界に広まったと。

D
うん。

N
けど、おそらくウクライナもロシアも、西洋人にとってもあまり区別がつかないから、なんとなく「ロシアンボール」と呼ばれてしまったという見方が優勢なんですね。「ロシアン」と呼ばれるに至った確実な証拠については、今のところそれを語る人を見たことがないけど。で、今、この名前をあらためて「ルデンコ(Rudenko)」とか「ウクライナボール(Ukranian balls)」とか呼ぶのはどうか、っていうスレッドが立っていた。大吾さんはそれを聞いてどう思いますか。

D
自分は、今は名前を変える時じゃないと思った。政治的なメッセージのようになっちゃうこともそうだし、あとは道具の名前ってジャグラーの総意で決まるものだと思うから。もしみんながウクライナボールにした方がいいね、っていう流れがあるなら、変えるし。

N
うん、きっぱり一人の意思で変えるものでもない、っていう立場ですね。それもよくわかる。

D
なおくんはどう。

N
なんかね、何よりルデンコさんがどう思うかを聞きたい。

D
それ、自分も思ったよ。

N
まだ存命かも知らないんだけど……。僕としては、「ロシアン」と呼ばれていることで今不快感を持っている人が果たしてどれぐらいいるだろうか、と思うんです。今までみんな普通に使っていて、もちろん、ウクライナで開発された、って知っている人もいたけど、その人たちも、おおむね、「ロシアンって本当はウクライニアンなんだよね」って笑って話すぐらいのものだったと思う。だし、これからもそれぐらいでちょうどいいんじゃないかと思う。ウクライナの人たちは、ちょっと複雑な気持ちを持っているかもしれない。それも、まずは聞いてみたい。でも、大方の人は気にしていなかったと思うんだよなぁ。勝手な予想ですが。

D
そうだよね。逆に「ロシアン」っていう名前を過剰に否定しちゃったら、何か思うところのあるロシア人の人だっているかもしれないしね。ヴォヴァ(・ガルチェンコ)とかどう思うだろう。政治と、そこで暮らす人とは違うわけだしね。あとは、そう簡単に名前って変わっていくかな、という難しさもあるよね。

N
それも大事な観点ですよね。でね。イギリス人ジャグラーの友人が、「大手のジャグリング道具会社が名前を変えたら、割と早く変わっていくだろう」って言っている。キエフ、という名称がキーウに変わっていっているみたいに。一部のジャグラーは、たぶんしばらくしたらロシアンボールを別の名前で呼ぶようになると思う、とも言ってた。それもそうかもな、と思う。全体が変わるかどうかは別として。

D
少しずれるかもしれないけど、道具を作って売る立場として、やっぱり道具の名前っていうのは毎回悩むものだよ。これからどうしていこうか、という方針についても考える。今までは「PMロシアンボール」って、他のジャグリングショップと、ある意味横並びになるような名称の付け方をしていたけど、他のショップとは並ばないようなネーミングも当然ありだなって思う。以前ジャグラーの小辻さんと作った「ビッグバッグ」とかさ。ビーンバッグも、あえてPMとかはつけずに「ビーンバッグ」とだけ呼ぶのもいいなと思っている。

N
なるほどなー。ネーミングひとつで、道具のあり方も表しますよね。それが背負うものも随分変わるだろうし。

D
でもビッグバッグだって、小辻さんの希望に合わせて作っていて、今までのジャグリング道具とはちょっと違うわけで、「小辻ボール」みたいに呼んでも良かったけど、でも本人から「ビッグバッグじゃないですか」という提案があったからその名前になってるんだよね。道具を作った本人が必ずしもその名前を残したいと思っているとも限らない。むしろオリジナル道具を、開かれたジャンルとしてただ開放したい、というだけの人もいるかもしれない。

N
うんうん。開発者へのクレジットが必ずしも必要か、という議論もできますね。……なんか、「ロシアンボール」という名称を政治と結びつけて考える気持ち、ウクライナの側に立ちたい、という気持ちや、ロシアとウクライナを、これを機にしっかりそれぞれ尊重できるようにしたい、という気分の表明と一体化して、名前をなんとかしたい、と思う気持ちもすごくわかるんですよね。けど、僕はこれをあんまりにも大きい政治的な話にするのは、背負うものを重くしすぎな気もします。

D
うんうん。

N
ところで最近は何か新しいこととか、考えてます?

D
最近、民芸玩具の本を読んだんだけどね(『世界の民芸玩具: 日本玩具博物館コレクション』民衆芸術叢書)。しばらく考えていることではあるんだけど、ジャグリング道具的な置物が作れる可能性ってあるなと思ってる。そのヒントになった。ただ木をちょこっと削っただけなのに、それが「民芸玩具」として扱われているものもあったりして、置いてあるだけでも成立するわけじゃん。何がそれを成立させるのかな、って考えたり。

N
なるほどね。

D
そこで、やっぱり、ジャグリング道具は、ジャグラーが使うからジャグリング道具なんだ、ということを思った。

N
ジャグリング道具、っていうものがあらかじめあるんじゃなく、ジャグラーが使うという行為が先立っている、って感じか。

D
極端な話、ジャグラーがA4の紙をうまく操ったらジャグリング道具になるわけだし。

N
たしかにね。でもそうなると今度は、ジャグラーってどういう人のことだ、っていう話になりますね。そうなると、僕は、ジャグラーという名称は、技術に宿るものだ、と思う。

D
なるほど。

N
そう。で、「ジャグラー」と「ジャグリング道具」っていう概念は、「技術を持つ者」対「その技術を発揮する対象」として相互に補完しあってるんだと思う。同じように、民芸玩具というのは、民衆、「作り手集団の生活」を背負っているから、そこに補完性があって、強度があるんですよね。きっと。民衆という「共通のルールを持つ人々」の数や、あるいは思いの深さを、面影として宿している。だから存在感があって、面白いんだと思う。まぁ、ただの木の棒でも「成り立つ」っていうか。見た瞬間、外国のこととか、まだ見ぬ広い世界、執念とか、かけた時間とかが、一気に想起されるっていうか。

D
おっ。それと関連づけると、新しいものがジャグリングと関係あると認定される、っていうか、ジャグリングの一部として広まっていくのって、どういう過程なんだろうね。

N
僕は、なんだろう、やっぱり、「共通のルールを了解している人たちが一定数いる時に、名前のついた個別のものが成立する」ということを基本として考えます。「メンコ」だって、マテリアルとして見ればただの紙だけど、「メンコ遊び」というルールのもとで、それに関わってきた人々の顔、まぁ、要は文化を全部背負っているんだと思うんですね。だから、強度がある。だからそういう意味で、一定数のジャグラーと、継続的に関わりを持ったらジャグリング道具になるっていうのは、腑に落ちる。

D
ああ、でもピザ回しに関わり始めた時に感じたこととも関係があるかもな。ピザ、って名前がついてるからこそなんらかの強度を持つっていうことはあるもんね。名前が背負う文化、興味深いなぁ。ちょっと、ジャグリング道具の強度については、考えてみよう。

N
なんか、初めの問題からは離れたけど、色々有益な議論になって、いいテーマでしたね。僕はもうちょっと、ルデンコさんについて知りたいなと思う。

参考:
「ロシアンボールの生みの親、ミハイル・ルデンコ(英語)」
https://www.juggle.org/mikhail-rudenko-inventor-of-russian-balls/

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☆PM Jugglingのnoteを勝手に紹介☆
記憶に残る瞬間
https://note.com/daigoitatsu/n/n2e8907e8addf
「でもいまのこの光景はもしかしたら覚えてるんじゃないか? と勝手に思う瞬間が、たまにある。それはただ、僕にとっての印象的な瞬間、というだけなのかもしれないけれど。」
(記事本文より)
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◆寄稿募集のお知らせ◆

週刊PONTEに載せる原稿を募集します。
800字以内でお書きください。
編集長による査読を経たのち掲載。
掲載の場合は、宣伝したいことがあればしていただけます。
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締め切りは、毎週金曜日の23:59です。

◆編集後記◆ 文・青木直哉

-またまた発行が遅れてしまいました。Juggling Airport もおやすみ。もう少し忙しい時期が続きそうです。

また来週。

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発行者:青木直哉 (PONTE)

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