週刊PONTE vol.156 2021/11/08

=== PONTE Weekly ==========
週刊PONTE vol.156 2021/11/08
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PONTEは、ジャグリングについて考えるための居場所です。
週刊PONTEでは、人とジャグリングとのかかわりを読むことができます。
毎週月曜日、jugglingponte.comが発行しています。
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◆Contents◆

・青木直哉…ジャグリングの雑想 37.Object Episodes を聴く(7)

・ハードパンチャーしんのすけ… 日本ジャグリング記 舞台編 第18回

・寄稿募集のお知らせ

・編集後記

◆ジャグリングの雑想◆ 文・青木直哉

37. Object Episodes を聴く(7)

ジェイ・ギリガンとエリック・オーベリが、ジャグリングについて自由闊達に議論を繰り広げるポッドキャスト「Object Episodes」。シーズン1最後のエピソードは、「ジャグリングを見せること」を軸にした二人の対話。主にジェイが話題を提起し、それに続いてエリックがゆっくりと考えを述べる。といってもこのポッドキャストは、基本的に毎回そのような形で進行する。シリーズ全体を通して、ジェイの方が饒舌である。エリックにとって英語は第二言語だから仕方ない部分もあるだろう。英語をネイティブで喋れる人っていいよな。逆に学習して身につけた人は、みんなよくやっているもんだ、と本当に思う。このポッドキャストを聴いていると、「母語ではないコトバで議論を交わす時の、困難と楽しみ」のことを考える。

さて、内容について。
エリックもジェイも、数々のステージをこなして作品を作ってきたジャグラーだ。そんな2人が、動画であれ舞台上であれ、パフォーマンスにおけるジャグリングという分野の特殊性、多くの人が陥りがちなこと、また教育に携わった経験や、世界各国での経験を織り交ぜて、楽しそうに対話を進める。
かつてジェイに教わっていたジャグラー(ギヨーム・カルポヴィッチ)からも聞いたことだが、ジェイは課題を的確に言語化するのが上手い。このポッドキャストでも、その能力は遺憾なく発揮される。ジェイの視点に賛成か反対かを問わず、ひとまず考えてみたくなるような問題が次々に提示される。エリックは場合によっては全く同意を示さないが、それでもその言葉を基点にして議論は耕されていく。

序盤で”Genre of good”(=「いいもの」というジャンル)というコンセプトが出てくる。かつてエリックとジェイが一緒にショーを見ていた。その最中に、エリックがジェイに向けて語った言葉だ。ジェイが、君はどんなジャンルが好きなんだ、と聞いた時、「特定のジャンルが好きなのではなくて、『いいもの』っていうジャンルが好きなんだ」と言ったのである。そのときはお互い冗談のつもりだったが、これを聞いて以来ジェイは、「いいものはショーに取り入れるし、悪かったら使わない」というシンプルな規則を折に触れて指針にしている。
例として、フランスのジャグラーエリック・ロンジュケルと一緒に作品”How to Welcome the Aliens”(https://www.youtube.com/watch?v=PbYQcy3LNB8)を作った時の話をする。創作の最初に、70個ほどの核となるアイデアをリストにした。そのうちいいと思えたのは20個だった。次の日、さて、こぼれた方の50個をどう活かし直すか、と考えそうになったが、いやいや、いいものの方に取り組めばいいじゃないかと思い直し、これは使えると判断した20個のアイデアの方に力を注いだ。
「想像の通りならもっと良くなるはずなんだ」と思って、一度ダメだと思ったアイデアを磨き直そうとしてしまうことがある。それよりも「これは面白い」と思ったものを磨くことに時間をかけた方がいい。「ジャンル・オブ・グッド」という一言はそんな指針になっていることを語る。
「ジャグリングというジャンルの中で考えたら、こういうのが面白いんじゃないか」と「その分野らしさ」にこだわるのではなくて、あくまで体感として「これはいい」と思えるものを感知して、それに素直に従っていく。
……という態度だと解釈すると、なんだかPONTEとして目指したい領域でもあるなぁ。

「パフォーマンスは、自分ができることのリストになっちゃっていることが多い(Lots of perfomance are just a list of what you can do)」とのジェイのセリフも印象的だ。ジェイにとって、ジャグリングのパフォーマンスは、全体を通して何を見せたいのか、テーマが明瞭な方がいい。

「ジャグリングを見せる」という行為を、ジェイは「ゲームである」というメタファーで解釈する。演者は見る人に対して、あるルールを説明する。観客はそのルールを理解して、そのゲームの中で次に何が起こるのか、ということを予期しながら楽しむ。
そのルールは、言葉でクリアに説明されてしまう時もあるが(大道芸などで「今からナイフを三本投げます!」)そのルールの提示は、明示的ではなくて、演技そのものに暗に含まれている方がいい。その好例として、マイケル・モーションが、三角形の枠の中でバウンスジャグリングをする演目(https://youtu.be/qjHoedoSUXY)を挙げる。

このエピソードを通して、「ジャグリングを見せる」という行為全般にあたり、(主にジェイが)ずっと納得できていないことがたくさん述べられる。なぜ演技をする人は観客とアイコンタクトを取るのか。観客と演者の間に上下関係はあるべきなのか。彼らはそういった、「だって、そういうものだからなぁ」と多くのパフォーマーが明確に答えられない問いを、意識的に考え続ける。終盤は、ジャグリングにおける「道具や技を真似すること」の是非についての議論だ。これは、イエス、ノーで答えられることではない。真似する方、される方で、もっと対話があるべきだ、というのがおおむねの二人の意見である。

最後は、日本で発達した「パズルスタイル」(ポッドキャスト内では”Japanese style”と表現している)はエリックが発祥だ、という面白い話題で幕を閉じる。ことの発端は、エリックが作った、ボール同士がパズルのように空間にいろいろな形状を描いていくシークエンス。2000年台初頭にこれをMASAKI氏に教えた。そこからKOMEI氏などを通じて日本全体に広まっていき、今や「日本のスタイル」として認知されているのだ、という話である。実際、今でもまだまだその影響は大きい。
こんな歴史の意外な接点の話も、Object Episodesではいくつもなされている。

さて、このポッドキャストで話されることは、もしかすると他の表現芸術ではとっくに話されていることばかりかもしれない。しかし、それがジャグリングの文脈で話され、こうしてアーカイブされている、ということに大きな意味があると思う。筆者としては、その様子を塀の上から覗いて実況するような気持ちで、海外の議論を見ていきたいと思っている。これ以降も、Object Episodesに限らず、さまざまな事象を紹介するつもりでおります。現在進行中のシーズン2の紹介も、やっていきます。

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☆PM Jugglingのnoteを勝手に紹介☆
実感
https://note.com/daigoitatsu/n/n2f73c0b17fb5
「ジャグリングは手を動かすことと、空想することの行き来で楽しんでいる。なのでまた手を動かしたくなるタイミングが自然にくるはずだ。ただ、道具を送った人たちに会う機会がないということが、ここにきてまた気になりだしてもいる。」
(記事本文より)
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◆日本ジャグリング記 舞台編◆ 文・ハードパンチャーしんのすけ

第18回

2006年6月に開催した「堀の外のジャグリング」の内容振り返りの続きです。

・ひぃろ ハット「かぶる!カブル!カブ~る」
前の演者である鶴岡アキラさんの舞台装置として、大きな木箱が設置されていました。その箱の中から現れるひぃろさん。ひぃろさんらしくシュールな展開からのハットジャグリング。1から3個のハットジャグリングでした。西野順二さんが展開している「ジャグリング学公開講座」YouTube
https://youtu.be/IuAK1RccLPM
にて、「堀の外のジャグリング」がハットを深めるきっかけになった、というようなことを言ってくれて、ちょっと公演を企画してよかったな、と思いました。そして、オムニバス公演ながら、演者間のつながりを意識してくれてうれしい。

・目黒陽介 ディアボロ「2月」
ながめくらしつ前の目黒陽介さん。しかしながら、この時にすでに「ながめくらしつ」に続く「目黒陽介の世界」は、核としてあったように思います。もちろん、それは大道芸でも垣間見えていたわけですが、それがいっそう濃密になった印象を受けました。そして、それは「堀の外のジャグリング第2回公演」で、いっそう濃くなって行くのですが。当時「ジャグリングをしっかりとみせて、ジャグリングを広げる」みたいな話をしばしばしていました。それを着実に形にして行き、今も活躍の場を広げていっている目黒陽介さんを本当に尊敬します。

・SOBUKI FRAGMENT(クラブ)
SOBUKIさんの大道芸は、大盛り上がりでバスカーの印象が強いひとも多いかもしれませんが、ジャグリングへの愛情も深いのがぼくの印象です。あれだけショーを盛り上げるのに技術がなければ、そりゃ無理なので当たり前ですが。とても研究熱心であり、そこに独自性を加える視点も欠かしません。そんなSOBUKIさんがあたためていたアイディア集のようなジャグリングたち。1本のクラブマニュピレーションとか、熱い。ジャグリング愛を感じる作品、好きです。

前回、書き忘れましたが、前回今回、そして次回とくろせさんによる記事
http://kurose2000.blog72.fc2.com/blog-entry-128.html
を参考にしつつ、自分のコメントを添えて書いています。おかげで当時のことが思い出せました。感謝。

◆寄稿募集のお知らせ◆

週刊PONTEに載せる原稿を募集します。
800字以内でお書きください。
編集長による査読を経たのち掲載。
掲載の場合は、宣伝したいことがあればしていただけます。
投稿・質問は mag@jugglingponte.com まで。
締め切りは、毎週金曜日の23:59です。

◆編集後記◆ 文・青木直哉

-「Object Episodesを聴く」が長くなって、また発行が遅れてしまいました。まだまだやっていきます。

-今週10日から、九州バイク旅に出ます。横須賀からフェリーに乗り、福岡に着いて、そこからひとまず長崎を目標に走り、以降の予定は未定。長崎ではPM Jugglingの大吾さんと合流し、ジャグラーの大橋昂汰さんと会う予定。その様子を個人的なブログの方(https://fromsvankmajer.blogspot.com)で毎日日記にして、そのまとめをこちらで掲載しようかなとも目論んでいます。

-以前連載していたPM Juggling大吾さんとの対談を、本にまとめています。ひとまず試作ができました。横浜・妙蓮寺の生活綴方書店にある工房で作っています。ここからさらに修正を加えて、世に出せる形にする予定。(こんな感じ https://jugglingponte.com/wp-content/uploads/2021/11/IMG_1550-scaled.jpg)

また来週。

PONTEを読んで、なにかが言いたくなったら、mag@jugglingponte.com へ。

発行者:青木直哉 (PONTE)

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