週刊PONTE vol.138 2021/07/05

=== PONTE Weekly ==========
週刊PONTE vol.138 2021/07/05
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PONTEは、ジャグリングについて考えるための居場所です。
週刊PONTEでは、人とジャグリングとのかかわりを読むことができます。
毎週月曜日、jugglingponte.comが発行しています。
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◆Contents◆

・青木直哉/板津大吾…PM & PONTEのジャグリングセッション または瓶に詰めた手紙 第2回「自分に合わせる、自分が合わせる。-『人と物7 秋岡芳夫』をめぐる話 」

・ハードパンチャーしんのすけ…ジャグリングで出会うこと 第12回

・寄稿募集のお知らせ

・編集後記

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◆PM & PONTEのジャグリングセッション または瓶に詰めた手紙◆
話し手・板津大吾(PM Juglling)、青木直哉 構成・青木直哉

第2回「自分に合わせる、自分が合わせる。-『人と物7 秋岡芳夫』をめぐる話 」

青木直哉(以下N)
今日はこの本、『人と物7 秋岡芳夫』(MUJIBOOKS)について話すところから始めましょう。

板津大吾(以下D)
なおくんが無印良品で買ってきてくれたんだよね。ありがとう。

N
MUJIBOOKSの「人と物」というシリーズの一冊で、無印良品の哲学に共鳴するような「くらしを見つめた文筆家」を扱っています。
取り上げられるのは、柳宗悦、花森安治、小津安二郎など、主に昭和に活躍した日本人ですね。こういった人たちの思想が、色々な著作からの抜粋で紹介されている。500円と手に取りやすい価格も魅力。
なぜ今回この本を取り上げるかというと、ジャグリングにおいて「自分の道具を見つめ直す」ことと関わりがあるような気がしたから。
秋岡芳夫というデザイナーは、「立ちどまった工業デザイナー」を自称していました。有名な製品だと、今も使われているuniの鉛筆が、秋岡さんの関わるKAKというグループによって1958年にデザインされていますね。あとはあぐらをかいて座れる椅子なんかもデザインしていたり。
大量生産、大量消費の価値観を批判的に見て、「自分の暮らしを自分でデザインするめざめたユーザー」(p.114)だとか、「消費者から愛用者へ」という考え方を提唱しています。今でいう「感じいい暮らし」のルーツみたいなものかな。

D
自分的にはね、これを読んでいて、実はちょっと違和感があった。

N
お、そうですか。

D
例えばこの人は、有名なデザイナーの椅子を買っても、すぐに自分の身体に合うように脚を切っちゃいましょう、という話をしている。でも自分は、完全には身体に合っていない道具でも、自分なりに使うのもいい気がしていて。
なんか、切る前に本当にその大きさでできることを全部やったのか? って思っちゃう。
そういう意味での工夫が欠けてるんじゃないか、って。いや、もちろんこの人はすごく尖った思想の持ち主だとはおもうんだけど。

N
なるほど、そういう視点は全然なかった……。
僕は素直に、家具はやっぱり自分に合わせなきゃなー、って思っちゃった(笑)ちょっと前の話だけど、この本の影響もあって、うちにあるすごくいいデザインの椅子を、バッサリ脚切って低くしました。

D
まぁ、もちろんジャグリング道具で、自分もそういう、道具を自分に合わせる、みたいな感覚はある。
でも一方で、例えばデビルスティックを使う人が、センタースティックにグリップテープを巻くカスタマイズはするけど、木の芯棒からこだわって自分で作るか、と言ったら、いや、そこまでは別にこだわらない、みたいな人が全然いると思うし、人それぞれでいいと思うんだよね。

N
道具を作って売ってる人ならではの視点、という感じがする。

D
ズレが気になっていない人にとっては、それを主張しすぎてもなあ、って。

N
じゃあその「既製品を自分に合わせる」というところはひとまず置いておいて。
箸を買うにあたって、「お値段・色・柄で選ぶけれども買う決心は手でする」(p.75)っていうところ、これは、どうですか。
僕、この一節、いいと思う。手で決心する、手で買い物をする、って。

D
それはいいね。やっぱり、ジャグリング道具も手で買うものだと思うし、そういう風に買ってもらえたら、と思う。
手に取ってもらえる実店舗があった方が、小さいものづくりというか、使い手と密に対話して、楽しく作り上げていくような過程はやりやすそう。

N
そうですね、ユーザーの反応がその場で分かるっていうのもあるし。
買う方も、スペック表だけ見てこれが最適だ、と思っても、なんかしっくりこないことって山ほどあります。
僕、最近買ったバイク、ちらっと実物は見たことがあって、後でパソコンの画面上でじっくり見て、もうこれしかないでしょ、と思ったんですよ。
色々レビューも見て、ああ、もう、これ、って。
でも実際に手元に来てじっくり眺めてたら、どことは言えないんだけどしっくりこない、みたいな部分があって(笑)
やっぱり実物が目の前にあって、自分の手と耳と目で選ぶのが一番……(ちょっと後悔してる)。

D
「触った感じ」ということでいうと、玲くん(宮野玲)が、既存のリングが硬すぎるから、紙素材でリングを自作した、なんていう事例もあるね。
素材に関して自分が作りたい物でつくるっていうのは色々と可能性があるよね。
なんかふと思ったんだけど、ボール、リング、クラブ、全部同じ素材で同じ重さに作ったら、同じ道具みたいになるというか、同時に扱って気持ちよかったりするのかな、とか思う。

N
うーん、どうだろう……。軽すぎるんじゃないかな……。けど実験したこともないからわかんないですよね。素材を選ぶ、っていうことはジェイとエリックもオブジェクトエピソードで言ってたな。
絵を描くときに、筆の太さや種類や絵の具の色を選べるように、ジャグリングでも、あらゆる素材と色と大きさのリングが壁一面にバーっとある、みたいなのが理想だ、と。
荒唐無稽なようだけど、それは、美術の世界では当たり前にやってることだって。

D
その回、聞かなきゃ(笑)
なんかさ、話変わるけど、すごい人のジャグリングを見たときに、例えばまさひろくん(高橋優弘)のクラブをみてうおおー、ってなるのは、やっぱりジャグラーとしてクラブを触ったことがあるから、その気持ちよさがわかる、みたいなところってあるんじゃないかな。

N
ああ、触った時の感じを共有しているから? それはありそう。
そう思うと、ジャグラーが見るジャグリングの感じと、そうでない人が見るジャグリング、って違うんだろうな。あと、上手い人の近くにいると上手くなりやすい、っていうのはなんか経験則としてあって、それとも関係ありそう。

D
なおくんは世界中のジャグラーと触れ合ってきてるけど、何かを自分の中に取り入れている感覚はある?

N
うーん、残念だけど技術はほぼ何も吸収してないかも……身体感覚で何かをトレースした、みたいな感じはあんまりない。
でも、ジャグラーの「生き方」をむしろたくさん吸収してますよ。言葉では伝えきれないような、人々の暮らし方を目で見て、耳で聴いて、こういう人がジャグリングと関わってるんだぁ、って肌で感じて、それを無意識に参照してると思う。

D
なるほどなあ。なおくんはジャグリングしてない時を見てるよね。

N
そうです、ジャグリングしてない時ばっか見てるから、名だたるジャグラーにたくさん会ってるのに、技術は全然上がってないです。

D
いやぁ、でも今回みたいに、本を軸に話すっていうのはそれだけで、普段読まないような本を頑張って読めたり、思うことを言語化する機会になったりしていいね。

N
ゼミみたいなね。一つの材料をきっかけにオープンに話すの、いいですよね。

D
なんかさ、パリの芸術家が、カフェに集ってアイデアを深めた、みたいなさ(笑)

N
このコーナーは、ジャグリング界のカルチェ・ラタンです。
これ、無理に話をジャグリングに繋げなくてもいいですよね。僕らジャグラーなので、勝手にジャグリングのことが低音として響いてて、なんか、受け手が勝手にジャグリングの話として広く解釈してくれる……んじゃないかって思う。
雑談が一番楽しいですね。……なんか、最近面白いことありました?

D
あの、今までカルディでコーヒー豆を買っていたんだけど、近所のスーパーの豆の方が、安いし普通に美味しい、っていうことに気がついた。

N
ふはは(笑)
……いや、でもそれもほら、大量生産が悪いことばっかりじゃないってことですよね。それはそれで顧客がちゃんといる。
大量に仕入れるがゆえに、いいものが手に入る時もある。

D
それぞれ役割があるってことだね。

N
なんか、うまくまとまったかな。来週もお楽しみに。

-宮野玲(みやの あきら)…1987年生まれ、卓越したリングジャグリングが特に有名だが、なんでもうまいマルチなジャグラー。個人でも、ながめくらしつなどのグループでもパフォーマンス経験が豊富。https://www.instagram.com/akiramiyano/
-高橋優弘(たかはし まさひろ)…世界トップレベルの技術を持つ、日本の若手トスジャグラー。https://jugglingponte.com/2017/10/31/takahashi-masahiro-interview/
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☆PM Jugglingのnoteを勝手に紹介するコーナー☆
作ることに夢中
https://note.com/daigoitatsu/n/n80a38ed0d218
「だとしたら作るときの環境を整える、キャンバスを真っ白にしておくことが大事なんじゃないかなと思う。」
(記事本文より)
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◆ジャグリングで出会うこと◆ 文・ハードパンチャーしんのすけ
第12回

YouTubeはじめました。
ジャグリング講師としてのチャンネルです。
https://www.youtube.com/channel/UCTFpHXrbbQpaea–Ga_6pbQ

…自分のプロモーションのため、というのはもちろんあるのですが、ジャグリングがもっと広まると世の中楽しいな、というのが根底にあります。3ボールカスケードくらいは教養になると良い(割と真面目に言っている)。

ここ数ヶ月、ぼんやりとずっと同じようなことを考えているのは、ジャグリングとの付き合い方みたいなことです。これは、PONTEの影響が多分にあると思いますが。YouTubeを始めたのもその流れの一環であるかもしれません。
大仰な言い方になりますが、ジャグリングにどのような意味を付加してゆくのか、ということを考えているのです。もちろん、意味なんて人ぞれぞれで良くて、何が正しいなんてことはないのですが、ジャグリングに関わることの意味を整理し、可能性を把握し、提示することができたら、ジャグリングの世界の奥行きが増すのではないかな。

先日のこと。
そんなことを頭の奥底で流しながら歩いていると、
「健康麻雀」
という看板が目につきました。
しばらく歩くと、今度は
「スポーツ麻雀」
という看板がありました。
(麻雀大人気だ!)
どうやらどちらも、お金を賭けないで楽しむ麻雀だよ、という意味らしく、おそらくやってることは一緒です。そりゃ、麻雀は麻雀ですしね。
同じことを指していても、言葉から受ける印象は随分違います。
健康麻雀は、なんだかからだに良いことしてそうだし、スポーツ麻雀は、競技性が感じられてガチの勝負をしているのかなぁ、とか(あくまで想像です。)
ジャグリングも「健康ジャグリング」や「スポーツジャグリング」など、名前をつける…意味をつけることで受け入れられやすくなるのかしら。
そういえば、ジャグリングにも「エクストリームジャグリングコンペティション」とかありますね。(まだ開催されている?)
健康でいえば「ジャグササイズ」もあるか。

ジャグリングの「意味」が増えて形になってゆくと面白いな、と思うし、そんなことがジャグリングを楽しむきっかけを増やしてゆくのではないかな、などと麻雀の看板から思ったのでした。

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☆編集長コメント
動画拝見しましたがめちゃくちゃ本格的でびっくりしました。しんのすけさん、さすがです。
「ジャグリングとの付き合い方」というのはまさに、「ジャグリングの、ジャグリングじゃないところ」というPONTEの近頃の一大テーマでもあり、大いに共鳴するところであります。
とても嬉しい。
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◆寄稿募集のお知らせ◆

週刊PONTEに載せる原稿を募集します。
800字以内でお書きください。
編集長による査読を経たのち掲載。
掲載の場合は、宣伝したいことがあればしていただけます。
投稿・質問は mag@jugglingponte.com まで。
締め切りは、毎週金曜日の23:59です。

◆編集後記◆ 文・青木直哉

-対談企画、とても楽しく進められています。作り手の方も健全に作れるものっていうのはいいですね。

また来週。

PONTEを読んで、なにかが言いたくなったら、mag@jugglingponte.com へ。

発行者:青木直哉 (旅とジャグリングの雑誌:PONTE)

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