7月29日(月)

 朝、やはり曇っている。今日はオープンステージに出演するから、ミーティングがある。

 朝ごはんを食べる前に、ポッドキャストの編集をしてアップロードしておく。日中放っておけば、六GBのファイルもアップロードできるだろう。

 朝食を食べに行くと、EJAのメンバーの人々が三人で座っていた。今日はそちらに混ざる。朝食はバイキング形式。毎日同じメニューだが美味しい。ヨーグルトは食べ放題、コーヒーも飲み放題。チーズとハムもあって、サンドを自分で作れる。EJAのメンバーと話していたら、日本でコンタクトを取れる人を探しているんだよ、という。誰かいい人知らないか、と。

 自分で言うのもなんだけど、多分誰かいるとしたら僕だと思います、と言った。すると、EJA代表のヨナスさんはとても嬉しそうな顔をして、じゃあぜひなってくれよ、と言った。

 僕はEJAの公式メンバーとして、日本を代表することになった。かつて僕は、一生に一度だけでいいから、海外を一人で旅行なんかして、EJCも行けたらいいなぁ、と夢見ていた。その時のことを思うと遠い目になる。人生、わからないものだ。

 今日はオープンステージの当日ミーティングがある。十一時にビッグトップへ。

 今日の四時からパフォーマンスをする面々が集まっている。フラワースティックを操るイヴォ、キャッチングマシーンの愛称で有名なマークもいる。これは楽しみだ。ディアボロの砂原くんも来ている。もし出られたら、と運試しのつもりだ。テントの中は暑い。

 マネージャーのエヴァさんが挨拶。演技の順番を決めて、いきなりリハーサル。マサヒロが一番最初でいいかしら、とエヴァが言ったら、全員が「それはやめといた方がいいよ!」と笑っていた。マークは、まさひろの後になんてやれないよ、と笑っていた。

 だんだん外の天気が悪くなってきて、風が強く吹いているのがわかった。天気予報では一週間ずっと晴れると思っていた。どうも今日は嵐が来るわよ、とドイツ人女性アシスタントのルマラが言った。ルマラはとても人懐こくて、僕の耳の間にいきなりトランプを一枚挟んできて、何をするのかなと思ったら、「これでマジックができる」と言ってそれを引き抜いて、僕に見せてきた。ニコニコ笑っていて可愛かった。

 僕のアドバイスで、ディアボロのミーティングには砂原くんも来ていた。もしかしたら可能性があるかもしれないよ、と言ったのだ。すると、たまたま一人病欠が出たために、砂原くんもパフォーマンスできることになった。なんという幸運。と言うわけで、今日は三人の日本人が出ることになった。

 ジムに戻ると、いきなり風がすごく強くなり、雨も降ってきた。これは少しテントの中が涼しくなるかな、と期待。が、雨はそれほどひどくならずにやんだ。再び晴れ間が出てきて、気温はそれほど下がらず。

 主催者のヌノさんと(彼は、ポルトガル語ではヌーヌ、と呼ばれている。語尾の母音が弱いのだ)を探しにいくことにした。今日のご飯のことを聞きたかった。キャンプ場の中にある事務所に行ったら、誰かと話しているヌノを見つけた。おお、くんか、みたいな感じで、いつも眠そうな目でこちらを見る。眠いわけじゃなくてそういう目なんだろうけど。いろいろ対応できてなくてごめんよお、忙しくてさあ、と言う。生徒の名前を全員覚えていた僕の母校の校長を思い出した。

 ご飯とか、お金のこととか聞きたいんですけど、と言ったら、お金はあとで渡すね、と言った後、のそのそと動いて、ボランティアデスクの方に連れていってくれた。そこでチケットがもらえる、という。アーティストや関係者がご飯を食べられるレストランでお昼ご飯タイム。窓からはテントが見えて、その奥に森が見える。絶景というわけではないけど、フェスティバルの雰囲気を地続きに感じられるのでよい。感じのいい女性が注文を聞きにきてくれた。パフォーマンスの前だし、あんまり食べてもね、と思って、スープと野菜ぐらいでいいです、と言ったら、スープと野菜と肉料理が出てきた。角煮のような味のする骨付き肉。こりゃ多いね、と笑ったが、美味しかったので結局全部平らげた。

 あっという間にオープンステージの時間になり、僕と優弘くんでテントへ。いよいよ始まる。

 行列を作る参加者の合間を縫って中に入り、簡単なブリーフィング。だんだんとお客さんが入ってくる。客入れがおおよそ住んだあたりで、みんなで手を合わせ、おー! と気合いをいれる。

 僕は全体で三番目だった。正直に言ってほとんど練習していないが、自信はあった。僕の前のニッコロの演技が終わったら、ぱっと出ていって、三分半の演技を終わらせた。拍手を受けながら、客席を見渡す。どういうお客さんが立っているんだか、なんなんだか、よくわからない。拍手は大きいような、小さいような、よくわからない。本当に、わからないのである。

 そして順々に演技が終わっていき、砂原くんの番。最後に三つのディアボロを縦に回す技を決めると、大喝采。超人的なスキルを見せ切った。そしてトリを飾ったのが優弘。名前が呼ばれた時点で拍手が起き、ステージに立ってからあとも拍手が鳴り止まない。技をやっている途中で立ち上がって拍手している人までいた。EJCでこんなにも観客が熱狂しているのは見たことがない。

 無事演目が終わると、優弘が丁寧にお辞儀をする中、テントが揺れんばかりの拍手と歓声が響いた。そしてそのままカーテンコール。正直なとこと、他のパフォーマーも、そして日本人二人もとんでもない量の拍手を受けていたので、僕はコソコソっと出て終わろうと思ったのだけど、カーテンコールで表に出ていくと、ごおお、と響くような拍手と大きな歓声で迎えられた。ホッとした。

 演技が終わり、砂原くん、優弘くんと外に出ると、日本人をはじめ、いろんな人がこちらに近づいてきて、コメントをしてくれた。お腹が空いたのでスーパーに行こうと思ったのだけど、十m歩くたびに話しかけられたり、抱きしめられたり、グーサインを送られたり、と大人気で、買い物を始められるまで三十分かかった。

 とても幸せな気分。