出発日
朝はゆっくり起きて、スコーンを食べ、出発。昼15時の便で札幌に向かう。東京駅を少し見てから向かおうと思ったが、結局出発が遅く、ちょうどいいくらいの時間のバスに八重洲口から乗る。エティエンは、「ビルがでかいなぁ」としきりに言っている。ところでエティエンはけっこううっかりしているところがあって、しょっちゅうお金が足りなくなって改札で引っかかっている。今回も引っかかった。「お金大丈夫?」と聞くと「大丈夫大丈夫」と言うのだが、大丈夫じゃないことの方が多い。バスに揺られて一時間。無印良品の家具で彩られたターミナル3に到着。ちゃんぽんを食べる。
搭乗、あっというまに北海道、新千歳空港。バニラエアが、くじ引きキャンペーンやっていた。もうすぐ運行が終了するらしい。
空港で台湾からくるアダムと落ち合う予定だ(ちなみに彼の名前はAdamと綴るが、本人は「エイダン」みたいな感じで発音する)。少し待つ。新千歳空港、国内線の出口から国際線へ向かうところ、随分賑わっている。アダムと、パートナーのイヴォンヌと合流し、電車で札幌へ。札幌駅からは、今夜のゲストハウスのオーナーに迎えにきてもらって車でゲストハウスへ。ゲストハウスは、古民家を改造した素敵な作り。今回の目的であるWJD in Hokkaidoの主催者であるエクストリーム芹川くんと、パートナーのKさんも迎えに来てくれていた。
少し休んだら狸小路にタクシーで向かう。運転手さん、「北海道も外国の旅行者の方が増えましたね」と言っている。魚料理の居酒屋でご飯を食べた。北海道のジャグラーたちが集う。みやじさん、ポイ魔人あおいさんとも合流。狸小路商店街は、全長1km近くあるというとてつもなく長い商店街で、夜になるとアーケードの下、ジャグリングやダンス、フリースタイルバスケットボールを練習をする人たちがいる。少し歩くと、確かに、ジャグラーやフリースタイルバスケットボーラーがいた。混じって、練習。北海道の、空気。冬、寒いだろうな。エティエンは、「北海道気に入った」と言っている。再びタクシーに乗り、帰宅。すぐに寝た。
次の日、朝8時ごろ起きて、エティエンが起きてくるまで動画を編集したり、日記を整えたりする。朝ごはんも出た。オーナーの方が寿司職人だった、というので、朝から豪華な巻き寿司と味噌汁が出た。なんだなんだ、素敵だ。同じく宿泊していた全くジャグリングは関係ない台湾人二人と少し喋り、ゲストハウスを後にする。みやじさんの車で小樽へ。小樽ではいわゆる「観光」をする。最後、海に寄ってから、体育館に行く。体育館で練習。結構な人数が集まる。25人くらいいたかな。
終わるとチャッピーさんの家に行き、お酒を飲んだり近所のコンビニに行ったりして、みんなで雑魚寝。こちらに来てから、僕はエティエンと、しきりに「北海道は北欧と似ている」という話をしている。道幅の広さや、家の作り、それと、特に昨日泊まった宿の匂い。木を使って建てられた家が、時間が経って放つ独特な蜜っぽい香り。サウナのような匂い。昨日の夜にコンビニまで行く道で嗅いだ空気の匂いも、フィンランドの空気にそっくりだった。
僕とエティエンはデンマークとフィンランドで会ったことがある。だから、特にフィンランドには特別な思い入れがある。
※※※
成田空港から、横浜の家に向かうバスの中である。
通路を挟んで、隣でエティエンがスケッチブックに何か描いている。さっき札幌の空港で、セリカワくんとカナコさんからもらった「ココアシガレット」の青いTシャツを着ている。
ふと外を見やると、隅田川を挟んでスカイツリーが見えた。エティエンと僕が同時に、ぼーっとそちらを眺めた。2週間以上前に、あそこでエティエンはショーをしていて、僕はTシャツを売っていた。
一週間と少し前に、僕たちは沖縄にいた。うだるくらいの熱気と湿気を帯びた空気の中で、大正琴を弾いて、海で泳いで、貝を採ってきて、ベンチで昼寝をして、夕暮れの中、ビールを飲みながら浜辺で話をしていた。
暑い暑い、と言っていた。
6時間くらい前までは、僕らは札幌にいて、台湾からの友人と、岩手からの友人と、北海道に住む友人と別れを惜しんでいた。北海道や東北地方のジャグラーたちに迎えられて、にぎやかな時間を過ごした。夜は、フィンランドの空気を僕もエティエンも思い起こして、日本の中でも、いかに地域によって環境が違うかを話していた。寒い寒い、と言っていた。
この3週間の間、随分と「いつもと違う」生活が僕を取り囲んでいた。こんな短期間に、沖縄、北海道、と、南北の極端な移動をしたのは初めてである。その合間合間に、普段通りの仕事をしながらだったから、完全に平常から切り離されたわけではない。しかしそれでもどこか、自分がこの3週間、とんでもなく遠くにいたような感覚が心の奥底にある。
ああ、きっとこの3週間のことは歳を取っても思い出すだろうな、という気がする。
バスから見える景色が徐々に変わって、横浜が見えてきた。
あと2日間だけ、このフランスから来た友人と過ごす時間がある。
※2019年6月のnote掲載記事を加筆・修正したものです。