5月11日(土)

 

 今日でオルベリーは最後。起きてダイニングに行って、チャイティを飲む。アデレードで最初にスーパーに行った時に買ったチャイティの粉がついになくなった。随分長持ちしたなぁ。

 ベックがキャンベラにある家族の家に息子と行く、というから一緒にドライブしてキャンベラまで。すごい偶然。朝9時には家を出る。バイロンともお別れ。図らずもオルベリーに長く滞在することになって、バイロンともいっぱい喋った。初めて会ったのは2016年で、それからほとんど会ったことはなかったんだけど、まるでこの8年間ずっと近くにいた友達みたいな感じがした。

 ベックのヒョンデの車で走り出す。まずは息子のフィンを拾いに行く。別々に暮らしているのだ。家はとてつもなく大きかった。白い雑種犬が出迎えてくれた。小さな、シュナウザーとプードルの雑種。フィンを乗せたら出発。フィンは鼻を啜っていて、どうも風っぴき。フルーティでも風邪が流行っていたみたいだ。ベックとは少し話したけど、なんだか疲れていて、助手席で僕は大半の時間、寝て過ごした。そんなに動いたわけでも、とりわけ寝不足だというわけでもないのに、こんなに疲れているのは何故だろう。もう3週間、慣れない土地でずっと過ごしているからかもしれない。みんな優しくて、ベッドも快適だけど、それとは関係なく、知らない土地で過ごしていることの緊張感はずっとあるのだろう。

 ずっと雨が降り頻る中走り続けて、3時間と少しでキャンベラに到着。事前に教えてもらっていた住所で待っていると、すぐにレイチェルとクリスがきた。レイチェルは、僕がオーストラリアに来る前に横浜にラブライブのコンサートを見にきていて、その時に会っていたのであった。初めて会ったのは2019年。だがその彼氏のクリスとは実はもっと前に会っていて、2016年に、バイロンと同じタイミングでニュージーランドで会っていた。

 ベックと別れを告げて、今度はレイチェルとクリスの家にお世話になる。早速、レイチェルがオーケストラの練習に行かねばならないと言うので、見送りついでにクリスに車で博物館まで連れて行ってもらう。キャンベラはそれほど大きくない街だが、美術館、博物館が充実している。

 博物館は大きかった。主にオーストラリアの歴史についての展示。有料コーナーでは古代エジプトの展示をしていたけど、スキップ。無料の内容でも十分楽しめる。自然環境から、先住民の抑圧の歴史、オーストラリアにある様々な危険や、南極のことまで、雑多に色々な展示がしてある。

 だがこの時僕はもうヘロヘロで、展示を見ようとベンチに座るたびに寝そうになってしまっていた。クリスが、「もう少し展示があるみたいだけど、もっと見たい?」と言ったのだけど、帰ろう、と言った。

 アパートまで帰ってくる途中で国会議事堂をぐるっと回ってきた。車窓から観光。クリスの話を聞きながら、ここでも寝そうになったけどぐっと堪えて、アパートに帰ったらソファに倒れ込むように横になり、寝た。

 しばらくすると、レイチェルを迎えに行ったクリスが帰ってきた。もう空は暗くなっている。夕飯は、レイチェルの実家でご馳走になることになっていた。車で15分ほどの実家へ。レイチェルのお母さんルーシーと、ピートという建築家の男性が一緒に暮らしている。子供の頃とはだいぶ家の様子が違うんだ、といって、レイチェルが嬉しそうに家の案内をしてくれた。そして、猫も紹介してくれた。頭に矢のような模様があって、アローと呼ばれていた。

 夕飯は、ジャスミンライスと、ズッキーニ、インゲン、ミニトマト、ナッツの炒め物と、そしてレンズ豆とかぼちゃのカレー。とても美味しかった。ルーシーとピートは10月に日本に来て熊野古道をお参りする、というので、色々と質問をしてきた。僕は猫ばっかり気になって、夕飯を食べ終わり、デザートの美味しいチョコレートケーキを食べ終わったら、ルーシーが、ソファに座ってみなさい、猫が乗ってくるから、と勧めてくれた。

 言われたとおりソファに座って猫をよぶと、くるるん、と言いながら飛び上がって膝に乗ってきた。普段、結構暴力的な性格の猫であるらしく、みんな驚いていた。優しくなでなでしてあげたら、ゴロゴロと嬉しそうにしていた。

 まだ夜の8時前だったけどみんな疲れている感じだったので解散する。ルーシーは、「いつでもきていいのよ、猫が恋しくなったらいつでもきなさい、ほら、レイチェル、ナオが恋しがっていたら、すぐにでも連れてくるのよ」と僕のことをたくさん気遣ってくれた。いい家族だなぁ。

 アパートに帰り、クリスのお兄さんが日本からお土産で持ってきたというボードゲームの説明をして、レイチェルはシャワーを浴び、僕とクリスはシャワーも浴びずにそのまま寝たのだった。■