5月2日(木)

 朝9時半にNICAに行く予定なので早起きしてマーヴィンに駅まで車で送ってもらう。別に散歩させるわけじゃないんだけどゼイダもついてきて後部座席に座っていた。

 意外に電車が混む。山手線ほどひどくはない。でも、8時の時点で満席、人一人分ほど間隔を空けて立っている乗客が大勢いる。

 この日記のこの部分を電車の中で座って書いているんだけど、自分の使っていることばが、ここにいる大多数にとって未知の言語であるということの快楽を味わっている。公共にいながら同時に個室にいるような、そんな感じがする。考える言語も日本語であるから、思考が他者との関係よりも、自分にとっての何であるか、ということに関心がいく。

 フリンダーズ・ストリート駅、1番プラットフォームに到着。そこから一番遠いプラットフォームの13番まで歩き、着いたらすぐに電車が出発。数駅行って、降りる。

 少し時間があったので駅前のオッペンという名のカフェに入った。中華系のファミリーがスタッフだったんだけど、彼らが働いている姿を見て何故か涙が出そうになった。

 NICAを見学した。ナイカと読む。オーストラリアの国立サーカス学校。学費はいったん国が保証し、卒業後に一定の収入を獲得するプロになった場合、払わなくていいのだ、とマルコが説明してくれた。アルゼンチンから来た男、マルコ・パオレッティ。その名を僕はずっと知っていて、10年近く前にイタリアで開かれたEJCに来ていたことも知っている。その時も確か一度会っている。でも僕もむこうもあんまりそのときのことを覚えていなくておあいこ。僕が学校に着いた時に、正面玄関の前で、もう一人、アールという先生と一緒に待ってくれていた。まず中に入って名前を書いて、受付を済ませる。建物全体を案内してもらう。貸し出し用の道具があるところ、大きなジム、新体操や体操の組織と場所をシェアしていること、2階の事務所や、救護室。

 10時になって、ディアボロのタイがやってきた。一緒にしばらく技の研究をする。それからニックもやってくる。ひょろっとしたニック。最後は先生のマルコも混じって一緒にボールジャグリングをする。終わったら、マルコのシルホイールの授業を見せてもらう。マルコが生徒にアドバイスをする様子を見ていたら、つかつかと向こうからアジア系の風貌の先生がやってきて、話しかけてくれる。チャーリー先生。英語のアクセントから、これは中国語話者だろうなぁと思って普通話でコメントを返したら、嬉しそうにしてくれた。南京の方の出身者だという。80年代ごろから日本にもきてジャグリングを含むサーカスの公演をしていた、という話を、写真を見せながらしてくれた。

 AJCにいたジェシー達とも会って、そろそろ帰るよ、という時にマルコがギフトをあげるよ。と言って自分が載っている雑誌にスペイン語でメッセージを添えて渡してくれた。まるで何年も知り合いだったみたいに対応してくれた。優しい人だった。

 午後は特段予定もなかったから、いったんフリンダーズストリートに戻って、歩いてまた図書館に行った。前回来た時に見られなかった部屋も見た。やはりとてもいい。やっぱり、住んでもいいかもしれないな、と思った。この間も見た展示をまた見に行って、それから家路についた。■