4月30日(火)

 起きて一階に行くと、マーヴィンとジュリーがもう起きていて、サイモンも出発の準備をしていた。これからサイモンは、さらに何時間も運転してシドニーに帰るのである。

 では、また、シドニーで。アデレードからここまで来た時以上の道のりだ。大変だろうけど、やっぱりサイモンは全然疲れてるように見えない。お父さんと車のエンジンオイルを点検し、メンテナンスをしてから旅立って行った。

 僕はといえば、まずは街を見に行こうと思いたち、駅まで案内してもらうことにした。

 犬のゼイダとお父さんマーヴィンと一緒に駅まで歩く。お父さんは、見た目はおとなしいけれどよく喋る人だ。サイモンが通っていた学校を見せてくれたり、どんなお店があるか話しながら駅まで。犬のこともいっぱい喋ってくれる。

 「よく言うことを聞かせないとね。この犬はディンゴの血が混じっててすぐにハンティングに行っちゃうんだ」

「僕のこと絶対噛まないし危ないことはしてこないけど、勢いはすごいですよね」

「いやあ、トレーナーが穴だらけになるよ」

「ホントですか」

「ほれ、ヒール、くっつきなさい、向こうからね、犬が来てるでしょう、小さいのはまだいいんだけど大きいのが向こうからくると闘いになっちゃうからぴったり私のそばにくっつけとくの、ほれ、そっちじゃない」

 家から駅までは20分ほどだった。グーグルマップで見たらもうすこいかかる予想だったんだけど、マーヴィンは足が長いから一歩が大きくて、どんどん前に進んだ。

 サイモンが貸してくれたメルボルンのSuicaのような「Myki(マイキー)」カードをゲートでかざし、 Xでスペースしながら電車を待つ。電車に乗る。小汚いおじさんが、自転車を置いて横になっていた。乗客の数はそれほど多くない。電車は現代的でとても綺麗だ。ヨーロッパの電車と似ている。なんとなく、日本の電車は、あれはあれでけっこう特殊なんだよなぁ、と思う。

 フリンダーズ・ストリート駅に着く。メルボルンの中心駅だ。着いたとき空は曇っており、小雨が降っていた。やや寒い。ちょこっと動画も撮る。昂汰くんがいないから話し相手がいないことも相まって、なんだか人に話しかけたくなっていて、でもとりあえず話す欲を満たすために自撮りしながら、何をしているか話す。

 とりあえずどこか中に入ろうと思ってヴィクトリア国立美術館に行く。日本で言えば新国立美術館くらい巨大なのだが、入場は基本無料だった。有料展示もあったようなのだがどこにあったのか見つけられないくらい大きかった。展示は、世界中のアートをかいつまんで割と脈絡なく並べているような印象もあり、これはこれでいいなと思った。あまり教育的な感じがしないのがいい。人形劇の映像が流れている作品があって、それに30分ほど見入っていた。2月に下北沢で人形劇祭を見て以来、ジャグリングよりも人形劇の方が気になっている。

 それから歩いて州立図書館に行く。僕がこっちに来る前に日本に来ていたレイチェルが勧めてくれたところ。こちらも巨大。入ってすぐのところにあるスペースがすでに素晴らしい。飲食可能な勉強スペース。疲れていたので、このスペースで動画を編集したり、日記を書いたりしてしばらくボケっとしていた。1時間ほどで回復してきて、よし、中も見てみるか、と思い歩き出す。素晴らしいのはここからだった。横浜でいつも行っている図書館と同じくらいの大きさの4階か5階建くらいのホールがいくつもある。そしてそのうちのひとつでやっている無料の展示もとても充実していて、横浜の小さい映画館にあるよりもよほど大きいくらいの画面に、写真が次々映される写真展を、ソファに寝転がって見られた。その隣の部屋には、びっしりとならんだ油絵の数々。これだけでも、日本で1000円払って見るくらいの展示の規模。公共サービスが実に充実している。トラムも市内中心部を移動する分には無料だし。メルボルンは住みやすそう。物価も法外に高い感じはしない。

 閲覧室でしばらく日記を書いたり航空券を調べたりして過ごした後、今日は夕飯家で食べるよ、と言っていたから、5時半には図書館を出た。帰りはトラムを使ってフリンダーズ・ストリートまで帰る。スリやら犯罪には気をつけないとな、とまだ気を配ってはいるんだけど、どうも、イタリアとかフランスの混み合った街で感じるような、脅威の気配はないような感じもする。そもそもが移民で成り立っている国だから、ということが関係あるかもしれないなと思った。

 電車に1時間ほど乗って、駅から20分歩いて家に帰ったら、ジュリーが作った美味しいラムの脚料理が待っていた。デザートのプディングもまた出てきた。ゼイダが、テーブルの下から見上げて、僕からラムのおこぼれをもらおうとしていた。■