4月28日(日)

 AJC最終日。会期中、朝はコンスタントに8時前に起きていた。ベッドが合っているのか、起きる時はスッと起きられる。毎日疲れ切ってからベッドに入るので、入眠が早いのかもしれない。それか、今の日本のアパートで聞いているような、夜中の電車の音がないからか。あるいは、単にアドレナリンが出まくっているからかもしれない。

 僕の仕事はまだ終わらない。朝から「ディアボロと動き」のワークショップ。

 まずは輪になって「ディアボロの秘密を教えてあげる」と言ってこそこそ話しながら始めた。途中で、はい、じゃあスティックだけ持って、でも上下運動だけでうまく、ゆっくり大きく回そう、と言って広がってもらって実技をする。僕はみんなに声をかけつつ、「ディアボロを操作しているのは手だけじゃないよ、腕も、膝も、肩も、首も!!空気も、水も、意識も、全部!全部がディアボロを操作しているんだよ」とだんだん言っていることが自分でも笑っちゃうくらい哲学的になっていったので、ヨーダになりきってスティックで杖つきながらダミ声で「ディアボロを学ぶのじゃ」とかいいながらワークショップしたらウケた。

 結局この日記とも繋がっているなぁと感じる。すべてをつなげて考えたい。だんだんわかってきた。僕は、「ジャグリングがうまい」という言葉とずっと戦っている。そのたった一つの概念との戦いが、僕とジャグリングとの関係だ。

 で、結局、あらゆる種類のワークショップを行うにあたって、僕は常にそのことを中心に考えている。自分の欲の根幹に気づくこと、とも言える。「ジャグリングとどういう関係を築きたいのか」を、自分自身に聴いている。で、そういう聴き方を自分なりに洗練させるために、ワークショップでは「教える」という方法をとっている。

 今回のワークショップは、今まで僕がやってきたワークショップの中で一番うまく行ったという手応えがあった。

 あとでサムという金髪ロン毛のジャグラーに「きみはステージ上だけじゃなくて常にパフォーマーだってみんな言ってるんだけど、それはどこから来るんだい」と興味津々で聞かれた。「お母さんが家で歌って踊ってたからだよ」と答えておいた。ま、実際ほんとの話である。 

 さて、これですべての仕事がようやく終了した。あとは楽しむだけ。と言ってもフェスティバルもすぐに終わる。最後はジャグリングオリンピックの時間。司会のサイモンやニックがゲームのルールを説明し、次々にゲームをこなしていく。僕は5ボール耐久勝負、倒立耐久勝負、そしてディアボロカゴ入れに挑戦。ディアボロカゴ入れでは、ゲーム開始二発目のショットを僕が行って、いきなりカゴをヒットした。自分でもそんなにうまくいくと思わなかったので、大声をあげて走った。まぁ、入ってなかったので勝たなかったけど。

 僕と昂汰くんは、ゲーム中にジェシーに声をかけられて、「3ボールの技を毎日載せているアカウントがあるんだけど、それに載せる技を提供してくれ」というので、ひと技ずつ披露した。

 他にもうフープコンバット、けん玉コンバットなどのゲームが全て終了したら、みんなで集まってビッグ・トスアップ。持っているジャグリング道具を一斉に上に投げ上げて、写真を撮る。全てのプログラムが終わると割にあっさりとコンベンションは終わりで、帰る人はこのタイミングで帰っていく。

 僕たちも、手伝うことが特になさそうだったので一旦先に家に帰る。そして、パスタの残りを料理して、夕飯として食べる。打ち上げがあったのだが、昂汰くんは「残ろうかな」と行って家に残る。その代わり、動画をみんなに見せておいてほしい、というから、分身として昂汰くんの動画を連れて行った。昂汰くんに、この滞在が楽しかったかどうかを聞いたら、楽しかったのは間違いない、と言っていたので、それだけでひと安心だ。

 家から徒歩3分のところにあるバーまで歩く。もっとも、僕は歩く方向を勘違いしていて、7、8分歩いてから逆方向に歩いていたことに気づいたので、戻ったので15分ぐらいかかった。すでにパーティを始めている。ビールを飲みながら、コンベンションに関して、良かったこと、悪かったこと、驚いたこと、これからの目標などを笑い合いながら話している。

 僕も、ここに来られて本当に良かったこと、サイモンには感謝しているということ、そしてこれからも自分自身をシェアすることを続けていきたい、と言った。こういうところでも、僕は「自分の意見を表明する」ということとパフォーマンスをするということが表裏一体であるように感じている。

 バイロンともいくらか話した。ちょっとジャグリングに疲れてきちゃってる、というバイロンは、僕の「気持ちよくジャグリングする」というテーマのワークショップが響いたと言っていた。ちょっとリフレッシュしなきゃね、と。あと、お前の服いいよな、とこのコンベンション通してバイロンに5回言われた。僕はそんなこと言われたことなくて、でも、それは僕が出国前に下北沢に衣裳を探しに行った結果数時間古着探検を満喫して辿り着いて、な特して買った服だったから、なるほどな、とも思った。自分がそれを選んだ理由を身体で知っていて、納得して外に出しているものは、大体褒められるんだ。

 他にも実は、とてもたくさんのいい声をもらった。ナオヤがステージに持ち込んだエナジー、良かったよ。ワークショップで聞いたことと、ステージ上で披露していたこと、どちらも合わせて見た時に、どちらも自分を見せてる、って感じがして、いいなと思った。とか。中には「ちょっと嫉妬した」とまで言っている人もいて、ああ、そうまで言われることがとても幸せだなと思った。で、やっぱり僕はこれからも、自分が気持ちいいと感じるところで自分自身の欲求を探っていくことをどんどん続けたいなと思った。他の人に「いい」と言われて気づいているんだけど、同時に、目指しているところは他の人に「いい」と言われることじゃない、というのがなんとなく、ミソなのだ。これは非常に細かいことなんだけど、でもそういう作りになっているんだな、と思う。サイモンは、「『Comfortable Juggling』のワークショップが本当に良かったんだよ。どうやって『心地よさ』を自分基準で考えるか、っていうか、そういうことの気づきがあったよ」と僕の隣で大声で言っていた。嬉しかった。僕がやりたいと思ったことが、こんなに素直に人に伝わっていると感じたのは初めてかもしれない。僕はワークショップの準備を、したようでいて全然していなかった。でも、本当は、していないのではなくて、毎日、日記を書いたり絵を描いたりする過程で、考え続けていたのかもしれない。僕はそういうふうに、もっともっと、考えていることが、不完全なまま、どんどん流れ出ていって、それが素直に人に伝わったらいいなと思っている。とにかく素直でいたい。

 500mlくらいありそうなジョッキで3.8%の地元産のエールを一杯だけ飲んで、11時ごろに帰ることにした。もうこれで完全にお別れの人ばかりなので、みんなと挨拶した。サイモンがこっちにきて、「で、明日は何時に帰るんだっけ、酔っ払う前に確認しといていいか」と聞いてくる。昂汰くんのフライトは朝9時で、だから7時には空港にいないといけなくて、つまり最低でも6時半には起きないといけない。わかった、というサイモンは、疲れているようにも見えたし、全然疲れていないようにも見えた。

 僕は1人で家に帰る。歩いて3分だけの道のり。空を見上げた。月があった。明るかった。星はあんまり見えなかった。星を見上げて綺麗だなぁ、と思うのも、ディアボロをうまく見せるにはどうしたらいいんだろうなぁ、と考えるのも、同じ平面の上に乗っかっているように感じた。■