4月22日(月)

 断続的な眠りから覚めたら、窓の外に海が広がっていた。少し前屈みになって左手を見ると、広大な陸地が広がっていた。オーストラリアである。飛行機着陸10分前に、僕たちの隣に座るマダムがペットボトルを差し出してきた。なんだろうと思って2人で見つめていたら、クルクルとキャップを回す仕草をして、「開けられないのよ」と言う。昂汰くんがキャップを開けてあげる。いつ着陸したのかわからないくらい、スムーズに着陸。待機中に機内から外を見た。空には文字通り雲ひとつない。日差しの鋭さが、窓越しからも伝わる。

 入国審査に並んでいて、この国はのどかで落ち着いているなぁ、という印象を受けた。理由はわからない。みんな朝早い到着のフライトで疲れていて元気がないからかもしれない。

 ……と、そう思っていたものの、入国審査でなぜか昂汰くんのパスポートがはじかれた。自動ゲートを通らないのである。ついでに僕も一緒に質問を色々受けるハメに。最後は「あなたたち何個ジャグリングできるの、えっ、7個? ジャグリングのフェスティバルなんてあるのねえ、ま、気をつけてね」と談笑で終わったけど、少しひやっとした。まぁ、多分滞在日数がそれぞれ違う、とかちょっと怪しかったのだろう。

 そしてSIMカードをアクティベートしたり、バス停を見つけたりと少し空港を出るまで手こずることが多く気疲れするも、無事市内に出るバスに乗り込んで今夜泊まる予定のホステルへ。迎えてくれたのは中華系のお姉さん。名前はハビ。まだチェックインはできないから、スーツケースだけを置いて、「おすすめの場所はあるかな」と聞いたら「中華街がいいんじゃない」と得意げに勧められた。英語に結構訛りがあって、きっとこの人はしゃべるに違いないと思ってこちらは中国語を喋ったら、向こうは喜んでくれた。

 特に当てもないので、とにかくアデレードの街の雰囲気を掴むために、歩いた。ホステルを出て、ハビが言った通りにまっすぐ歩いて、でも中華街には向かわずに、川に向かってみた。川に出ると、思っていたよりも川幅が広く、周りにとても綺麗に整備された遊歩道があった。向こう岸には球場が見えて、サイクリストやランナーがたくさんいた。親子連れの姿も多く、川ではペダルボートを漕ぐ人たち、遊覧船でのんびりと進む人たちがいる。ベンチがあったので、そこでしばし休憩。日差しが明らかに日本より強く、陽に当たっていると暑いのだが、日陰にいると少し肌寒いかもしれない、という感じの、調整の難しい気候。

 1時間弱そこで昼寝をしたり、ぼーっと珍しい鳥を眺めたりした。身体が白黒でクッキリとコントラストがある鳥は、クーワー! と勢いよく鳴く。それから、スーパーに向かった。お昼をスーパーで調達することにしたのだ。巨大スーパーColesへ。そのスーパーがある通りは目抜通りで、ここにはたくさんの人がいた。それまで、視界の中に最高でも20人ぐらいしか見えなくて、一体人はどこにいるんだろう、と思ったんだけど、そうですか、ここにいたんですか。スーパーではこれからの旅でおやつになりそうな乾燥フルーツやナッツバーを買う。そしてお昼ご飯用のサンドイッチ。日本のものよりボリュームがある。それに、Dareというミルクコーヒーを買う。入っている牛乳もコーヒーも濃厚で美味しいから、そりゃ、美味しい。昂汰くんもこれを気に入ってる。

 スーパーが思いの外楽しくて1時間滞在したのち、出て、ホステルに戻ってチェックインを済ませることにした。歩いて宿の方に帰る途中で、ボードゲーム屋さんを見つけたのでそこに入る。別に日本で見ることができないものが大量にあるわけでもないんだけど、おもちゃのために捧げられた空間はとてもワクワクする。

 30分弱歩いて宿に着いた。チェックインを担当してくれたのはチョンギという青年。再来週に日本に行くんだという。部屋に入ったら、まずはシャワー。昨日の夜は入れていないから、二日分の汚れを落とす気分。それから耐えきれずベッドで30分ほど昼寝をする。そして、昂汰くんがジャグリングの動画を撮っていた。せっかく来たから。それから、夕飯を食べる。このホステルは夕食が出る。パスタだった。スパゲティの麺とソースが別々で用意してあって、それを自由に食べていい。キッチンにはそれを作ったお姉さんがいて、なぜか向こうが中国語で話しかけてきた(なんで?)。ヴィーガン向けのソースがあって、それを昂汰くんが試そうとしたら、お姉さんは言う。
「そっちは美味しくないよ」
「でもあなたが作ったんでしょう」
「いや、そういうお客さんがいるから仕方なく作ってるだけ、かぼちゃと牛肉のソースのが美味しいからそっち食べな」
かぼちゃと牛肉のソースはものすごく美味しかった。

 それから昂汰くんは部屋にはいったり、他の動画素材を撮ったり、僕は日記を書いたりしている。中庭のようなところでパソコンを開いている。隣のテーブルでは、オーストラリア人、バルセロナ出身のスペイン人、北ドイツ出身の2人がそれぞれ喋っていて、英語、ドイツ語、カタルーニャ語が飛び交っている。■