4月21日(日)

 朝5:15、目覚まし鳴り響く。眠い。昨日は遅く1時すぎまで準備をしていた。家の前のコンビニでゴミを捨てて、駅へ。眠さが襲う。横浜駅からバスに乗って羽田空港まで。ほんの20分ちょっとだが、ぐっすり眠る。ターミナル1から無料連絡バスに乗ってターミナル3へ。羽田空港はいつからか、国際ターミナルのことをターミナル3と呼ぶようになった。いつも何番が国際線メインのターミナルだったか、分からなくなる。

 チェックインを済ませてまずはコーヒーでも、と思ったが、出発まで残り時間は2時間少々だった。そこで保安検査に並ぼうとすると、長蛇の列。モニターを見ると待ち時間が20〜25分とある。こりゃ、コーヒー飲んでる場合じゃない。比較的空いている方の北ゲートまで行って、10分ほど並んで入れた。107番ゲートへ向かう。途中にあるカフェで何か頼もうと思ったが、やや高い。目の前にセブンがあるから、そっちで買おう、とドーナツ、サンドイッチ、ミルクティー、スムージーを買ってホクホク。出発前に、僕ら二人のことを気にかけてくれているちこさんという方に、応援のお小遣い(投げ銭)をもらっていた。それで買っちゃおう、と言ってまとめて買った。お礼に写真を撮って送る。

 そしてここで、絵を描いておく。今回の旅では、日課を崩さないように細心の注意を払うつもりでいる。非日常であり、未知のことに出会うのが楽しみで、同時に、生活が続いているというイメージをずっと持っていようと思っている。30も過ぎて、そういう複合的な在り方を明確に持てるような気がしている。これは一種の修行でもある。予定よりも少しだけ時間は押したものの、ほぼ定刻通りに便は出発。少し本を読んだりしたのち、すぐに睡眠に入った。

 僕と昂汰くんは、もう10年以上の長い付き合いになるけど、きちんと話をしたことがなかった。ジャグリングに関わる人や昔の話をたくさんした。昂汰くんは、やっぱり落ち着いている。暇になるとアプリで将棋をやったりして、のんびり過ごしている。僕だったら初めての海外だったらソワソワして興奮して訳のわからないこととか口走りそうだけど、落ち着いている。昂汰くんに好き嫌いがあるかどうか聞いたら、なんでもだいたい好きなんだ、という。それはこだわりがないっていうことなのか、と聞くと、しばらく黙ってこう言った。

「こだわりが生まれるのって、時間を費やしたことだけですよね。だからジャグリングではやっぱり好みはあるけど」

「面白いね」

けどジャグリングには信念がない、とも言った。僕は信念があるのかなぁ。信念というほど大層なものはないかもしれないけど、やっぱり、伝えたいこと、みたいなのはある。昂汰くんは、ワークショップ、何したらいいですかねえ、と聞くから話していたら、「ジャグリングで伝えたいことないんだよな」と言っていた。キッパリしていていいなあと思う。

 機内食を食べた後には(日式カレーだった)眠気が再び襲ってきて、持ってきた日本語の本を読もうと思ったけど2ページ読んだところで寝る。

 シンガポールに到着。入国審査は拍子抜けするほどすぐ終わり、まるで駅に入るような感じで入国。

「どう? シンガポールは」

「外国に来た感じはしないけど、日本の中の特別なアミューズメントパークに来たみたいな感じですね」

「まぁまだわかんないよね(笑)あー、この匂い、いろんな記憶が呼び起こされるよ」

「僕も最近そういうことを考えますね」

「どういうこと?香りのこと?」

「んー、なんか、匂いとか、記憶とか。今までは、人生よりもジャグリングをしてた時間の方が長いって感じがする」

 ちょっと寄り道して、中で滝が落ちている商業施設、ジュエルを見る。ジュラシックパークの音楽が流れ、荘厳な雰囲気。僕が最後にこの国に来たのはいつだっけ? たぶん、5年くらい前。前から持っている交通カードを係員に調べてもらったら、5年で期限が切れるうちで、一枚は失効していた。もう一枚は生きていた。現金を下ろして、新しいカードを購入、電車でジャランベサーまで向かう。スィンに会うため。初めて会った時からいつも一緒に行っているスイチュンという中華食堂へ。スィンは、僕がシンガポールを第二の故郷とまでおもうきっかけを作った張本人である。昂汰くんに、彼女がどんな人か説明するのに、「とても親切で愛情深いいとこのお姉さんみたいな人」と言ったが、店に勢いよく入ってきてはしゃぎながら僕らをハグするスィンを見て、「事前情報通りですね」と笑っていた。シンガポールでは一番仲がいいジャグラーの一人ディーホンも一緒に、1時間ぐらい夕飯を共にして談笑。スィンは昂汰くんに「帰りも寄りなさい、一緒にご飯食べるわよ」と肩を叩いて睨むように言う。昂汰くんは笑っていた。

 8時間のトランジットなので、長いようでわずかな時間だった。ご飯を食べたら、さようなら。懐かしい人たちとの時間を惜しみつつ、空港に帰り、あとはオーストラリア行きの便を待つ。■