4月2日(火)

 出発までに演技は間に合うのか、どうなんだ、という気持ちと、いやぁ、全然どうにかなりそうだ、という気分が、潮の満ち引きのように交互にやってくる。演技をつくる以外にもやることはいっぱいある。いやはや、出発までにやるべきことの量に圧倒されてしまう。学報も出さなきゃいけない、ずっと懸念になってる原稿も入稿しなきゃいけない、普段通り仕事もしなけりゃいけない、この日記も出発前に一回本にしようとしている(どうだろうね)。そして、別の本も書き始めた。もちろん、絵は毎日描く。スペイン語も韓国語も、勉強する。で、昨日から毎日多言語で日記をつけた。とりあえず30日間続けることにしたので、それもやる。なんで今こんなこと始めちゃうんだよ。でもやりたいと思っちゃたんだからしょうがない。再来週には韓国語の試験を受ける。まぁそれは、勉強のきっかけに過ぎないから別に受かっても受からなくてもどっちでもいい。

 当たり前なんだが、生活はずっとそこにあるんで、ある時点で、やるべきことが消えて暇だ、なんてことは一生ない。ずっと忙しいまま。でも、僕なんか、のんびりしたもんだよな。一緒に住んでいる家族というのがいなくて(猫はいる)、お気楽なもんである。自分の問題ばっかり考えてられるんだからね。

 ……にしても、である。余裕がないんである。本当だったらさ、もう余裕のよっちゃんで、演技なんか、いつもやっている定評のある演目だから数日間リハーサルすればそれで万全で、ワークショップも、もう5年間はいろいろなところで実践してきたワークショップだから英語の言い回しの練習だけしておけばお茶のこさいさいで、今は暇なので、オーストラリアに行ってからすることリスト、みたいなのまで丁寧に作っていて、パッキングのことなんかワクワク考えていて、向こうのひとに持っていくお土産もじっくり考え始めていて、オーストラリアの旅行が終わった後のことまで考えられて……なんて状況であったらどんなにいいだろう。でも現実は、全然そんなことない。

 でもこうして書いていたら具体的なイメージになってきたので、何をステージで見せるか考えるのと並行して、旅行の他の準備をどんどん進めたらいいんだ、と思った。むしろそうしないといけない。そうだそうだ。やっぱりここに毎日文章を2000字くらい書くというのは、いい習慣だ。不安が、具体的に実行できる問題に変換されてゆく。

 今日は近所の公園で1時間ほどジャグリングをした。練習に行く前に見たスペンサーくんのドキュメンタリーで、「僕は週に3、4回、1回3時間の練習。休んでいる時に技のイメージを頭と体で反芻するんだけど、そのおかげで次に練習に戻った時に同じ技が以前よりやりやすい。適度に休むのも本当に大事」ということを言っていて、そうだ、毎日ハードコアにやらないといけない、ということでもないんだ、むしろジャグリングをしていない時にどういう心持ちでいるかの方が大事なんだ、と思った。実に短絡的結論であるけれども、事実それはそういうところもあって、今日は外で実際にジャグリングをする以外にも、部屋で使いたい音楽を流しながら、一体僕は何を見せたいのかを考えた。僕が観客席から自分を見るとして、どんなものを見たいか、という想像をしながら、メモをとった。その具体的なメモをもとに、何を練習するべきか、ということを計算して弾き出そうということである。

 電気グルーヴのでているインタビューとかも見てたんだけど(もちろん、参考にしよう、という意識で見ている。で、終わったらなんか全然関係ないのまで見ちゃう。あーあ)、彼らがいいのは、音楽は音楽であくまで真摯に作ってて、その上で飄々としてる、っていうことなんだな。つまり、音楽にはどこまでもストレートにぶつかってる、という印象がある、そして実際にレベルの高いものを作ってるからいい。そこで変に色々曲げて考えるんじゃなくて、まずは分野の中でもトップだと認められるものを作ってるんだけど、ただその上で、自分の自然な性格がでちゃって、全然力が入ってないように、全部ふざけてるように見える、という感じ。

 なるほどね。そこで僕は、一回素直にディアボロの「スキル」という部分に向き合ってみようじゃないか、という気でいる。それをどしどしやって、その上で、余裕ができる、その余裕でなんか踊る、みたいなそういうことがしたい。余裕すぎて小躍りが出ちゃう、みたいなくらいの温度感です。まぁ、そういうのはこれから2週間でどうにかなる問題でもないので、逆に、それに真摯に取り組もうと思うのであれば、今さら焦るとかそういうのじゃないわな、とも思う。でも一応演技は何かしらできないといけないので、今回は「音楽に合わせて作る」というアプローチで行くことにする。まずは草稿としての演技を一旦完成させなきゃならぬ。ええい、覚悟を決めるのだ。部分ごとに分割して、振り付け、みたいなものを作っていくのである。そう、振り付けだ。振り付けをつくるんだ。

 やること多いの、当たり前。持っている時間で、費やせる時間の中で、とにかく楽しく厳しくやることだ。僕は、ジャグリング一本で行きます、と決め打ちできる人間ではないので、そういう態度でいい、と割り切って、ただそこの中でなるべく熱を高く持っていたい。■