4月26日(金)

 5時半に一度起きる。このまま活動してもいいなと思いつつ、そこまで眠くはないけど、今日は本番が控えているから、体力をとっておこうと、少しまどろむ。再び目覚ましで7時に起きる。家計簿をつける。こういうことも気にしつつやる。食器を洗う。洗いやすい気がする。洗剤が強いのか。食洗機を使う習慣があるから、食器に傷が少ないからか。前日にタイ(ディアボリスト)に言っておいたけど、8時から洗濯機を回す。彼は洗濯機の隣の部屋で寝ているのだ。

  海外に来るといつもそうだけど、日本のものと勝手が違うので、本当にこれで洗えるのかどうか、少し不安になる。でも、ちゃんと洗濯できた。空は曇っている。乾くのに時間がかかりそうだ。

 朝一番でヴァータックスのワークショップをする。ディアボリストのタイと一緒。一応事前に話して、基礎的なことをやろう、という話になっていたから、それをやる。まともにヴァータックスができる人は、少ない。だから半分は、アクセラレーションのやり方、みたいになる。でも、みんな楽しそうでいい。学ぶ気は満々で来ていて、その上で気負いなくやってる感じ。

 一旦家に帰って、昂汰くんを呼んで三人で「投げないふたり」のポッドキャストを録る。埼玉にいる大吾さんと繋いで喋る。出国前は忙しくて普段通りのことができるか少し不安だったけど、今のところ、概ね予定していたことは大体できていて嬉しい。ラジオ収録もその一つ。

 収録終わって、いつも通り、巨大ソーセージを焼いて、パンに挟んで食べる。朝のうちに買ってきておいたものだ。近所のIGAというスーパーは7:30からやっているので、便利だ。14時から昂汰くんのワークショップがあるので、食べ終わったら、食器を洗ってジムに向かう。昨日のバイロンの提案で、ミーティングルームで行うことになっている。そうだ、動画でも見せればいいじゃないか、と思って、大画面を借りて、昂汰くんのアカウントにある秘密のビデオたちをみんなに見せる。子供達の様子を写したものが特に反応がよかった。多分、このビデオを見せているときは、特に昂汰くんが何者であるか、ということが伝わっていたんじゃないかと思う。昂汰くんの仲間たちがジャグリングを楽しんでいる様子、挑戦している様子、仲良くしている様子をたくさん撮って、それを綺麗にまとめて、大事に保存しているということが、それを、リーダーである昂汰くんがやっているということが、とてもたくさんのことを物語っている。僕は通訳としてその場にいる。このビデオを見ていて、ビデオがみんなに伝えている情報量以上のものを、僕が彼の言葉を翻訳することで伝えることはできないなぁ、と思った。言葉が脆弱であるのはこういうときだ。僕はなるべく黙ってそのビデオを見ていた。

 ワークショップが終わって、そのまま歩いて劇場に向かう。練習場も、ガラショーを行う劇場も、どちらも同じ通りの徒歩3分の距離にある。だから気が楽だ。リハーサルは4時からだけど、少し早めに向かって、場所を把握しておく。が、着いてみたら、前の人が早く終わりそうで、しかも控室がやたらに広い部屋だったから、そこで練習をしつつ待つことにした。しばらくすると、金髪メッシュのジェームズが声をかけてくる。もういいよ、いつでもどうぞ、と。ジェームズは、プレッシャーを与えないようにいろんなことを伝えるのが上手い人、という感じがする。まずは昂汰くんのリハーサル。照明についてもいろいろとお願いをしたけど、照明担当のスティーブンはいいよ、オッケー、という感じでテキパキと対処してくれて助かった。頭にヘアバンドを巻いて、だるっとしたパーカーを着て、やることやったらあとは終わり、みたいな雰囲気でとてもよかった。

 それから自分の番。照明とか、色使いとか、正直自分ではよく判断できないから、その場にいた昂汰くんと、タイに聞いて決めた。最終的にタイがいい感じに色を決めてくれて、よかった。彼は照明に詳しい。

 劇場は、小さいがいい劇場だった。そこらじゅうに、地元の人が書いたと思しき風景画や抽象的でエネルギーのある絵が飾ってあって、棚には本がいっぱいあって、それを5ドル均一で売っていたりして、地元の人のための場所、という感じ。

 家に軽く夕飯を食べに帰った(麺を食べた)。セリーヌが家を出たと思ったらバタバタと帰ってきて、「一番大事なものを忘れた」と言って、ニコニコしながらビールを4缶詰めていった。「終わったらお祝いしなきゃいけないじゃない」と言って笑顔でまた走っていった。再び、7時には劇場に向けて出発。

 いよいよガラショーの時間が近づく。到着した時には半分以上のパフォーマーが揃っており、それぞれ支度をしたり、ウォーミングアップをしていた。あるタイミングでステージマネージャージェームスがみんなを集める。

「じゃあいくよー、AJC、AJC〜」

 あまりにも適当な掛け声をするのでみんなバラバラに合唱する。ふにゃふにゃと始まるかに見え、それも面白いなあと思っていたら、MCのエリーが威勢のいい声で「AJC,AJC, AJC!!!」と叫んで、引き締まった始まり。

 僕は後半の部の最初だったので、同じく後半の部の最後、つまりトリを務める昂汰くんと一緒に客席の一番後ろの方から前半のショーを見る。前半が終わり次第、舞台裏へ。そして僕の番。

 なんだか今までで一番緊張していない。なぜだろうか。ひとつには、コンベンションで出会った人たちがいい人たちだともうわかっていたからかもしれない。劇場がこぢんまりとして落ち着く場所だったからかもしれない。あるいは、ジェームズやスティーブン、サムがみんないい人たちだから?

 でもやはり、きちんと準備ができている、という自信があるからかもしれない。「自分ができる最高のことを」とか、「恥ずかしくないものを」とか、「少しでも新しい技を」とか、一切考えていない。ただ、こういうジャグラーがいるんです、と示したいだけ。普段話す時と同じくらいの感じで望んでいた。何がどうなるかはわからないけど、僕がステージに立つ、やることはもう決まっていて、別にそれをド忘れするようなことはない、という時点でもう満点なのである。

 結果として、僕はいつになく楽しくショーをした。ちょっと落としたところもあったけど、だからなんだ、というくらい、むしろ、その落とした技をその後に決めたので、余計に盛り上がっていた。
 ガラショーが終わった。

 こうたくんはちょっと不満もあったようだけど、でも舞台裏に帰ってきてみんなに温かく迎え入れられ、とてもいい雰囲気だった。■