文:青木直哉(編集長)
観劇日時:2017/09/23
場所:あうるすぽっと
ダブル・エクスポージャーについて
本作『Double Exposure』は、アン・ソンス率いる韓国のダンスカンパニーと、フィンランドから来た、Ville Walo(以下ヴィッレ・ヴァロ)との共同作品。初演は2012年。今回オリジナルのメンバーは3人(イ・ジュヒ、キム・ボラム、チャン・グンミン)で、あとの二人の女性(キム・ヒョン、キム・ジヨン)は、今回から加わったメンバーだそう。
ヴィッレ・ヴァロといえば、ジャグラーの間では主に「Peapot Video (ピーポット)」シリーズでその名を知られている、2000年代初頭に、既存のクラシックジャグリングの概念を塗り替えたレジェンドの内の一人である。(それを本人の前で言ったら、「もっと大きい声で言って!誰も僕が有名だってことを信じてくれないんだよ!」と笑いながら言っていた。愉快な人だ。そしたら横の通訳の方が、「本当に有名なんですね、やっと信じました」とおっしゃった)
終演後のレセプションパーティで、ヒョンさんに一体どのように練習したのかを聞いた。すると、「ビデオを見て振り付けを覚えたの。演技全体も、こっちに来てから初めて合わせた」と驚きの答えが返ってきた。
プロのダンサーって、こうなんだなぁ、と改めて思う次第である。
シリアスとユーモアのバランスがよい
本作品は全編にわたって、少し雰囲気が重い。
ただ随所随所で、特にヴィッレが出てくるとどうも「中年のおじさんが頑張ってる」風の、よい可笑しみがあってたまらない。ダンスの迫力、ヴィッレのひょうきんさ、その両者のいいところがうまく生かされていたように思う。
シーンごとの緊張と弛緩のバランスもなかなかよかった。
たとえば冒頭のシーンで、のっぺらぼうのマスクを被ってポッピンをする男性が出てくるのだが、このシーンで、中で息を吸うと「ぺこっ」とマスクが凹むのだ。意表をつかれた。バカバカしさと真剣味のバランスがとてもいい。
なんだか苦しそうなんだけど、どうも笑ってしまう。(同じ列でヘラヘラ笑っているのはどうも私だけでしたが)
ヴィッレのジャグリング
ヴィッレは、3”カツラ”ジャグリングや、マネキンマニピュレーションを見せてくれた。京都のジャグリングユニット「ピントクル」の中西一史氏が、以前から体の部位の模型を使ってマニピュレーションをしているが、このアイデアを実際に連続性のある長編作品に、テーマと関連させて違和感なく溶け込ませるとこうなる、という好例を見たようであった。
もちろん他にもたくさんやりようはあるだろう。
ジャグラーに見て欲しい
本作品は、端的に言ってジャグラーにも見て欲しい作品である。まだ上演は二日間ある。(各日14時より)国内最大のジャグリングフェティバルJJF2017 in Fukuokaが同期間に開催されている(9/22-24)こともあって、意欲のあるジャグラーが見に来づらいタイミングになってしまった。
しかし予定が空いたジャグラーには、ぜひ観て欲しい。もう次いつ見られるかはわからない。まずダンスの質が高いので単純に見ていて面白かったのと、「ジャグリングを作品作りに生かす」という観点からも、インスピレーションが豊富に含まれている。
観劇中ずっと、「ダンスに負けないために、ジャグリングはどうすべきか」を考えていた。
重みのあるジャグリングの作品、というのが、日本ではまだまだ少ない。厚み、とも言えるかもしれない。
純粋なジャグリングを、どう「テーマ」とリンクさせてそれを「見て面白く」提示するのか、ということは、もっと時間をかけて議論されてよい。
この公演は、そういうことを考えるためにぜひ観ておきたい内容だった。
マネキンの首、というインパクトが強かったからか、終演後、見に来ていた女の子の学生二人が、抱き合ってすすり泣いていたのは印象的であった。あまりにも怖かったらしい。
だが実際にはそんなに怖くはないので(笑)ホラーが苦手な方でも、ご覧になってみてください。おすすめです。
『Double Exposure』
~ダブル・エクスポージャー~
2017年9月22日(金曜)~9月24日(日曜)3回
○コンセプト&演出:アン・ソンス/ヴィッレ・ヴァロ
○振付:アン・ソンス
○出演:イ・ジュヒ、キム・ボラム、チャン・グンミン、キム・ヒョン、
キム・ジヨン、ヴィッレ・ヴァロ
ダンスとコンテンポラリーサーカス
奇跡の出会い
社会的テーマをダンスとサーカスでユーモラスに描いた国際共同制作。
「Double Exposure」はフィンランド/韓国で1年間に渡る国際共同制作から産み出されました。
リサーチとディスカッションの中から浮かび上がったテーマは、整形手術。
その美に対する理想と現実の狭間を、明るくユーモラスに、ダンスとサーカスが融合したヴィジュアルパフォーマンスとして描きます。フィンランドコンテンポラリーサーカスの第一人者ヴィッレ・ヴァロと、韓国現代舞踊界で数々の賞を受賞し、国際的にも活躍するアン・ソンスによる、2012年ヘルシンキ/ソウルで初演された作品を、日本初上演します。 愛と皮肉に満ちあふれた類い希な作品を、どうぞお見逃し無く。
(以上公式サイトより抜粋)
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