週刊PONTE vol.180 2022/04/26

=== PONTE Weekly ==========
週刊PONTE vol.180 2022/04/26
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PONTEは、ジャグリングについて考えるための居場所です。
週刊PONTEでは、人とジャグリングとのかかわりを読むことができます。
毎週月曜日、jugglingponte.comが発行しています。
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◆Contents◆

・青木直哉…ジャグリングで書くこと 第0回 ジャグリングについて書くのを恐れている

・寄稿募集のお知らせ

・編集後記

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◆ジャグリングで書くこと◆
第0回 ジャグリングについて書くのを恐れている

 僕が「PONTE」という媒体を始めたのは、ジャグリングで「書く」という経験の場を広げたかったからです。ジャグリングについて書いて、それを発表する場所なんて当時はほとんどなかったからです。今だってそんなにありません。僕自身だって、PONTEによってそれを達成したかというと、全然、まだまだこれからです。まぁ、多少は貢献して「いなくもない」と思います。でも僕が思い描いていたようなものとは、今もほど遠いです。でもそれでいい、と思います、今は。まだそれでもいいです。僕は今、現時点で、何より自分自身が「ジャグリングで書く」ということを恐れていると思っています。これをなんとかしたい。
 「ジャグリングで書く」ということを恐れているのはなんででしょうか。これには理由があります。それは、おいおい話されてゆくと思います。僕にもまだわかりません。だから書きながら考えます。なんにせよ、まずは僕自身が「ジャグリングについて語ることを恐れちゃっている」という事態をなんとかしないといけません。じゃないと、楽しくありません。
 なので、もう僕は開き直って、それに真正面から取り組んでやろうと思いました。まずは自分が踊れ。それで、踊り出したくなった人が、その人はその人で、別のところで踊ってくれればいい。それがすなわち「ジャグリングで書くという経験の場が広がる」ということなんじゃないかとも思います。

 2014年のことでした。僕はまだ大学四年生でした。当時僕は、『ジェイ・ギリガンについて語るときに僕の語ること』という題名で、米国人のジャグラー、ジェイ・ギリガンについての論文を書きました。今読み返すとまぁまぁざっくりした論文ですけど、それなりに面白かったです。テーマは「彼のジャグリングがいかに革新的であるか、ということの説明を、日本語によって試みる」といったところです。この論文を書き終わって、なんだか僕は、もっとジャグリングについて書くことで、深まることがあるんじゃないか、という気分になりました。書きたいテーマがふつふつと湧いてきました。「無印良品の哲学」と「今のジャグリングの流行りのスタイル」の間に、何か論理的な関連性を説明できるんじゃないか、とか(結局これについてはまだ書いていません)。そういうことを思いついたんです。
 そこでまずはpdfファイルで雑誌を作って、Webページで公開しました。Tumblr(タンブラー)というサービスを使って隔週で公開しました。それはある時から、紙雑誌になりました。紙雑誌は十五号分続きました。やがて紙雑誌は休刊し、このメールマガジンに移行しています。でも、今度はそこから派生して単行本を出したりしています。
 PONTEは始めのうち、パブリックな場であろうと努めていました。寄稿を募集したり、主に「日本のジャグリング界」という、ちょっと正体がわからない、ぼんやりしたものを内包するようなイメージのメディアであろうとしていました。なんとなく、周囲からもそういう期待があったような気がしたからです。本当はそんな期待、おそらくなかったんです。でも僕はそう思い込んでいました。イベントに出店して雑誌を売ったり、通信販売で全国のジャグラーに売る、ということをしていたら、次第に、書店で見かけるようないわゆる商業誌みたいな形が、「最終的にあるべき姿」だ、というように見えたんです。実際、商業誌でもたくさん執筆をされている偉い方に、「同人誌じゃないんだし、もっとインタビューもバンバン採って、主要な劇場の公演も全部掲載して、取材だってする、くらいの方がいいよ」というような助言を受けたこともあります。その方は僕を気にかけてくれて、好意で、そういうことを言ったのです。それには、今も感謝しています。
 でも僕はそもそも、そうやって何かを「きちんとやる」みたいなことが苦手です。苦手なんです。本当に。それでも無理して、何か「きちんとやれないとショボい、悪だ」みたいなざっくりした恐れから、それなりにちゃんとしてるように見せよう、と苦しい努力をしていたようなところがあります。でも、きちんとやれないヤツなので、僕は「日本のジャグリング界」みたいなものを相手どるには、あまりにも非力でした。でも二十代ではそれにあんまり気づけませんでした。今僕はちょうど三十歳です。
 今では、そういう大きなものについては、「組織」だったり、「日本のジャグリング界を牽引しようとしている、確固とした意志のある人」とか、とにかく僕なんかよりもっと大きな強い存在が引き受けるべきものだ、と思っています。
 僕はこの連載で、「大きいものへの恐れ」みたいなものから逃れて、いかに自由にジャグリングについて書くか、ということを実践していきたいと思います。それが僕の一番いい「はたらき」じゃないか、って思うからです。養生テープで釘打ってもしょうがありません。養生テープには養生テープの役割がある。
 手始めにとりあえず毎回、四〇〇〇字の原稿を書いてみます。なんで四〇〇〇字かというと、僕は今個人的に、noteというサービスで毎日四〇〇〇字の原稿を書く、ということをしていて、それがうまくいっているからです。うまくいく方法を見つけたので、四〇〇〇字だったら、まぁ、長くても二、三時間あれば書ける、ということがわかるからです。というか、そういう文体と、書くための集中力と、夢中になれる話の仕方を身につけました。なので、その方法論を使って、自由に、ジャグリングについて、語ってみます。
 僕は海外のジャグリングシーンについて、そこそこ詳しい人間です。実際に足を運んだこともいっぱいあるし、やりとりもあるし、「eJuggle」という、アメリカで発行されているウェブマガジンを翻訳したりもしています。でも、そういう「肩書き」、とまではいかないが、「僕はやっぱり海外のこと書くべき」というような制限さえも、この連載では気にしないようにします。
 別に外部からそんなふうに制限を受けているわけじゃないんです。でも、どうしても人は、自分の得意分野があると、それに関する知識に特化して、何かを語ろうとします。もちろんそれも面白いことです。でもなんかちょっと、振れ幅が少ないっていうか、だんだん語る方も語る方で、ちょっと窮屈になっていくようなところがあります。なんででしょうか。
 それは、「今はそんなに、その話題には関心ないかなぁ」って時でも、やっぱり「そういう人」だと思われてるので、その話題についてなんか書かなきゃ、というプレッシャーになるからです。つまり、あっちに行きたい子供が、「あ、なおちゃん、そっちはダメだよ」って、無理に公園に連れ戻される感じに似ています。そりゃ、公園の中は把握できているので安全かもしれません。でも、本当に面白いのは、全然知らないところに出て行く時です。あっちに行きたい! と思ったら、僕はそっちに行きます。その方が、自分でも何を語り出すかわからなくて、断然面白いです。とんでもない事故に遭うかもしれません。でもまぁ、その辺は自己責任です。でもなんてったって、楽しいんですから、多少のすり傷ぐらいどうってことありません。きっと大丈夫です。
 さて、何について書きましょうか。ワクワクしますね。ジャグリングについて書かなきゃいけない、とすら思っていません。だから、この連載で、果たしてジャグリングについて書かれるのかどうかさえ、僕にはわかりません。でも、きっと「自由にジャグリングについて書く」ってそういうことから始まるんだと思います。ジャグリングについて書きたいなー、って思いながら、別の話をするんです。で、そうすると、自然と、ジャグリングの影が見えるような話になっていきます。それこそが、ジャグリングについて書くことの幅を広げる、ということじゃないかと思います。
 と言いつつ、なんかジャグリングのことを話したくなってきました。
 さっき、久しぶりに公園でディアボロの技を撮りました。オリジナル技です。多分僕はオリジナル技だ、と思っている技です。足の下からぽん、とスティックを投げて、そのまま足の周りに移行する、みたいな技です。仕掛けは単純ですが、割と見た目が美しくて、あんまり見たことのないコンボでした。
 僕は、「技を発明する」みたいなことって、ジャグリングに慣れていくにつれ、どんどんしなくなってました。なんとなく、惰性で今できる技を「流す」だけでも、充分気持ちいいからです。「ジャグリングの技を発明するのが楽しくてしょうがないヨ!」みたいなタイプの人も大勢います。というか、そういう人がいわゆる「現役ジャグラー」みたいに言われるんでしょうか。何か、前線で活躍しているジャグラーたちと、丁々発止で技を競い合っている、みたいなそういう人たちが、一番輝いてるジャグラーみたいに見えます。でも僕はちょっと、そういう世界ではやっていけないみたいです。というか、ちょっと微妙にズレたところで心地よくなる人間みたいです。
 別に望んでそうなってるわけじゃないです。斜に構えたいわけでもないんです。ただ、漫画で言ったら例えば、なんでもかんでも少年ジャンプとか、マガジンとか、サンデーに載って一世を風靡する漫画がいいってわけでもないじゃないですか。もちろんそういうのを読むのは面白いし、ちょっと憧れて描いたりもするけど、俺は『ぼのぼの』が好きかな、とか、あるじゃないですか。なんか名もしれぬ小学生が描いたヘンな長編漫画がすごい好き、というのとかだってあるでしょう。あるいは、日常のことを扱った、何も起こらないような、セリフも何もない、でも絵が美しい漫画が大好き、って人もいるでしょう。そんなことと同じように、ジャグリングにおいても、自分自身が気持ちいいと思うジャグリング、って本当に十人十色なはずなんです。同時に、それってなんか、あんまり可視化されている感じがしません。それか、僕の探し方が悪いんでしょうか。そうかもしれません。
 僕は、ジャグリングをするのが苦しくなってしまう人を見るのが、辛くてたまりません。でも決して「やめないでほしい」わけじゃないです。やめたかったら、自由にやめたらいい。むしろきついんだったら、さっさとやめて、別のこと、なんか、ドローン飛ばすとか、釣りとか、パラパラ漫画描くとか、ひたすら言語学の本読むとか、なんでもいいから、別のことやったらいい、って思います。そんなことにプレッシャーを感じる必要はさらさらないと思う。これは自分自身に語っていることでもあります。ただ、ええと、なんだっけ。
 そう、自分が好きなジャグリングの姿の話です。
 つまり今日でいえば、僕がやった新しい技、それは、なんか、他人に評価されるかどうかとは別の基準で、「僕はこれ、やっててちょっと面白い」という技でした。それは、すでにそういうジャグリングが存在するか、とか、同年代のジャグラーに見せて褒めてもらえるか、とか関係ない。ただ、「僕」と「ジャグリング」との間に存在する関係性みたいなもので、成り立っているんです。
 こういう態度は、きっと堂々と公言できるようなものじゃないかもしれません。平たく言えば、「自分の基準でジャグリングしたいんだ」っていうことです。「勝手にやってれば」って言われるかもしれません。怖いです。あっちこっちで活躍している素敵なジャグラーからも、無視されるかもしれません。
 でも、それって、むしろそこにちゃんと向き合うことによって、少なくとも「自分にとってとても居心地のいいジャグリング」が生まれる可能性のある態度なんじゃないか、と僕は思ったんです。そしてひいては、それが、それなりに素敵なジャグリングとして、他人の目には映るんじゃないか、って思いました。むしろあんまり他人を入れないこと、一人で向き合うことに集中する、っていうのが、一番楽しいし、充実感のあるジャグリングの一つの姿なんじゃないか、って思いました。
 なんでしょうね。これはちょっと難しいことだと思います。でも同時に、感覚がわかってしまったら、とても簡単な、というか、シンプルな気もします。とにかく「自分が気持ちいいかどうかに関しては嘘をつかない」っていうこと、ただそれだけだからです。
 さて、四〇〇〇字くらいで収める予定が、もう五〇〇〇字近くなってしまいました。今回は導入編、ということで、ここでいったん話を終わります。僕はこの続きがもっと知りたいです。でもいったんやめましょう。なんせ、もう発行予定の月曜日を過ぎて火曜日になろうとしています。まぁでも、それもいいでしょう。
 果たして、週刊ペースでこういうふうに話し続けることが、できるでしょうか。ちょっと別の形も模索した方がいいかもしれません。でも、とりあえず、しばらく、週刊で、こうして「自由にジャグリングについて、心に浮かぶ通りにいっぱい書く」ということを実践していこうと思っています。それが、自分にとってとても気持ちがよいことだからです。また、これこそ、一歩深いところで他人のジャグリングと繋がる、目には見えないけど下の方でどんどん流れていく伏流水みたいな、そういう種類の文章であり、人と会話をする手段であるようにも思えるからです。
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☆PM Jugglingのnoteを勝手に紹介☆
ピクニック
https://note.com/daigoitatsu/n/n59e00832c8b4
「みじかめのピクニックだったけど、自転車の上で子どもはすっかり眠そうになっていた。」
(記事本文より)
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◆寄稿募集のお知らせ◆

週刊PONTEに載せる原稿を募集します。
800字以内でお書きください。
編集長による査読を経たのち掲載。
掲載の場合は、宣伝したいことがあればしていただけます。
投稿・質問は mag@jugglingponte.com まで。
締め切りは、毎週金曜日の23:59です。

◆編集後記◆ 文・青木直哉

-新連載が始まりました。これを書いていたら、月曜日に発行できなくて、一日ズレてしまいました。でも、期日通りに出すことよりも、ちゃんと自分が面白いと思うものが書けてから出そう、と思って、こうなりました。いいことだなと思いました。人間のリズムって、よくわかんないですからね。そして、ジャグリングをしているのも人間なので、ジャグリングだって日々、色々変わるはずです。ああ、またこのまま、ジャグリングの話が始まってしまいそうです(笑)。深呼吸をして、そういえば僕はまだご飯も食べてないので、ご飯でも食べて、落ち着いてから、次のことを書きましょう。多分、来週はまたPM&PONTE対談も戻ってきますよ。というわけで、

また来週。

PONTEを読んで、なにかが言いたくなったら、mag@jugglingponte.com へ。

発行者:青木直哉 (PONTE)

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