週刊PONTE vol.132 2021/05/24

=== PONTE Weekly ==========
週刊PONTE vol.132 2021/05/24
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PONTEは、ジャグリングについて考えるための居場所です。
週刊PONTEでは、人とジャグリングとのかかわりを読むことができます。
毎週月曜日、jugglingponte.comが発行しています。
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◆Contents◆

・青木直哉…ジャグリングの雑想 31.エディンバラ・フリンジ

・ハードパンチャーしんのすけ…ジャグリングで出会うこと 第6回

・寄稿募集のお知らせ

・編集後記

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◆ジャグリングの雑想◆ 文・青木直哉
31.エディンバラ・フリンジ

EJC2019の後に行った、イギリスはエディンバラのフェスティバルに着いたときの雑感。

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ニューアーク・オン・トレントで開かれた長いEJCが終わって、エディンバラに着いた。雨がしとしと降っていた。とても寒かった。体感する季節が、「ギリギリ夏」から、「ほぼ冬」に変わった。しかし駅舎から垣間見えた石造りの建物群は、何か期待をさせるものがあった。もっとも本当は、EJCが終わって数日、そこで起きたことを反芻するような時間が欲しかった。一週間と少し、毎日、世界中から集まったジャグラーたちと寝起きを共にして、練習したり、ショーを見たり、ゲームをしたり、ご飯を食べたりした。帰り際には、きちんとお別れを言えなかった人も多かった。
今回のEJCは人数が多かった。だから、「あっ、そういえばあの人と全然話せなかった」ということもあった。もう時は既に遅し、僕は列車に乗って3時間半の旅を済ませ、エディンバラまで来てしまったのである。そういう、「ちょっとやり残しがある」という気分で迎えた、エディンバラの始まり。
駅を出て見えたのは、壁のようにそびえ立つ中世の面影をそのまま残した建物群である。雨が降っていてくっきりとは見えなかったが、その威容の印象はとても強い。いいぞいいぞ、とおもった。ジャグラーの友達の顔がちらつく頭を切り替えて、次の旅に心を向かわせる。
ここでは、一足先に到着しているシンガポール人の友人と待ち合わせをしている。メッセージを見ると、「これからショーを見るから一緒に見てもいいし、あとで夕飯どきに合流してもいいよ」とのこと。僕と旅の相棒ふじ君は、寒さに身を震わせながら、とりあえず夕飯で合流しよう、ということに決める。
待ち合わせの時間まで、駅近のフードコートで時間を潰す。同じ階にスーパーがあったので、豆乳やポテトチップスを買う。「もしかして、知っている人が通ったりしてね」と笑った。実際には会わなかったが、そういうこともあり得たのである。ここにはEJCや大道芸人の知り合いがたくさん来ていた。
夕飯のために街に出て、向かったのはPiemakerというパイ屋である。肉の入った調理パイを中心に、様々な焼きたてのパイを売っている。ボリューム満点、値段も良心的で(250円前後)、ここは今回エディンバラ旅の重要なフードスポットとなる。店に着くと、前日に到着したシンガポール人たちがいた。「これから別のショーを見るけど、ついて来る?」と言われた。僕たちはまだ宿にも着いていないから、大きなスーツケースを引いていて、申し訳程度の折り畳み傘だけをさして歩いてきたために、ずぶ濡れである。それでも、まぁせっかく来たのだし、と思って、一緒に次のショーを見に行くことにした。

というわけで一番初めに観たのが、「Super Sunday」である。小さなサーカステントの中で行われる。テントは、エディンバラ大学図書館のすぐ近くにあるThe Meadowsという芝生の野原のような公園の中にあった。フィンランドから来たRace HOrce Companyというグループの作品だ。
待ち時間を野外バーで過ごせるようになっていて、そこにはちょっとした暖房があったから抜くんでいたが、それもつかの間、ショーが始まる時間になったので、列に並び、テントに入るが、息が白くなるぐらい寒い。これは参ったな、早く帰りたいな、と思った。スーツケースも、中に入れられずに外に放置。
しかしいざ作品が始まると、僕もふじ君も、語らずとも「ああ、これは来てよかったな」と思っていた。ブレイクダンス、ヌンチャク、トランポリン、バンキン、ティーターボード、たくさんの要素が独特のユーモアと入り混じってテンポよく展開される、大爆笑と感動が同居するとてもよいショーだった。
作品を見終わって外に出ると、再び寒さに襲われる。やんなっちゃうなあ、と思って、Uberで帰ることを提案すると、同じ宿に泊まっている二人も同意し、4人で車に揺られて、帰途に着く。宿は、町の中心から少し離れたところにある住宅街にあった。ごく普通の二階建てのアパートメントの一室だ。
こういう、「普通の家」に泊まるのが好きだ。今だとAirbnbがあるから、そういう機会も多いし、(今回もそうだ)人の家にお邪魔するのもよい。ホステルのような複数段のベッドに泊まるような安宿もいいけれど、やはり「家」は落ち着くし、何よりそこで「暮らしている」感覚を持てるのだ。
次の日から本格的に作品を多く見始める。ナレーションの多い4人組のエアリアルの作品、南米から来た芸人のストリートショー、ストリートカルチャーを集めたショー、一人でおこなうミニマルなノンバーバルコメディ、バーレスク、シンプルにそぎ落とされたシルクドゥソレイユ風のサーカスなど。
エディンバラ・フリンジは、来る前に想像していたものとは少し違った。僕としてはいい意味で。というのも、それほど「人が溢れかえっている」という感じではなかったのである。町の中心部に、Royal Mile という大きな通りがあり、そこがいわゆる「公式」のバスキング(大道芸)スペースとなっている。唯一、その通りは人が多い。しかし、そこは同時に観光地としてもメインの通りであるから、別の季節でも人が多いのだと思う。そしてそれ以外の場所でも、転々と大道芸人がいるところもあるのだが、基本的にはそのRoyal Mile以外で、大道芸人や、人だかりを見ることはほぼなかった。なので、町そのものを見るのにも、それほど支障を感じない。今日は国立博物館にも行ってみたが、そこでも、寂しくない程度に人がいるだけで、特に「混んでいる」とは感じなかった。街がほどよく賑わっているのだ。

そんな中で僕は、エディンバラの目抜き通り、プリンシズストリートの本屋Waterstonesにあるカフェがお気に入りのスポットとなった。特にメニューには変哲のないところだが、大きな出窓から外の様子がパノラマで見られるのである。下は大通りを人やトラムが行き交い、向こうにはお城の立つ丘が見える。
もちろんエディンバラの街そのものも、とても気に入った。石畳を歩いていて、とてもポジティブな空気を感じる。フェスティバルの時期柄もあろうが、歩いている人々も国際色豊かである。それでいて、平和な空気がある。また、歴史がそこに「自然に佇んでいる」感じがある。長くいたらまた違った感想になるのかもしれない。しかし何にしても、4日間滞在してみて感じたことは「ああ、ここだったら住んでもいいなあ」ということである。まぁ、どこに行っても言っているのだが。きっと、地元の人はエディンバラのことが好きに違いない、と思わせるところがあるのである。ここにいる人たちは、「まぁ、何はともあれ、結構好きだ」とエディンバラに対して思っているんじゃないかなあ。
さて、話はフェスティバルに戻る。
まず、チケットが売り切れてショーが見られない、ということはなかった。なので「あ、これが見たいな」とウェブサイトやカタログを見ていて感じたら、開演前に会場に行ってチケットを買えば、基本的には見られる。
とはいえ、連日ショーを行っているものばかりを見ていたから、たとえば日にちを限定してやっているものだと、もしかして売り切れることもあるのかもしれない。
だが、基本的には、見たいものを決めたら、スケジュールを確認して、そこに行けばよい。その点、慎重にスケジュールを決めないといけなかったり、チケットを手に入れるためにやきもきするようなことはなくて、精神的には楽である。同じ演目をほぼ毎日やっている作品も多い。会場は町中に散らばっている。大体は歩ける距離にあるが、作品によっては少し遠くでやっているものもあるようである。同じ会場を使って複数の作品をやっているので、実際には、作品の数だけ舞台が方々に散らばっているのでもなく、結構コンパクトな移動範囲でいろいろと見られる。
ジャグラーならばジャグリング/サーカスの作品が気になるところだが、そこまで明らかに多いわけでもなく、とは言え少ないわけでもなかった。メインはコメディや演劇、という感じ。が、とにかく大量にあるので、細かく探せば、もっとあるのかも。それに、毎年ラインナップも変わるので、何とも言えぬ。だが大道芸の方では本当に、ジャグリングを使う人は山ほどいる。
あ、そうそう、大道芸で思い出したけど、今日見た、The Bucket Boyという人はすごくよかったな。至極シンプルなバケツドラムなのだが、ものすごくソリッドだし、観客を笑わせるのがうまいし、人柄が良かった。
チケット制の舞台でパフォーマンスをやっている人たちが空いた時間でバスキングをしているのも面白かった。一緒に自分たちの舞台を宣伝したりもしているのである。今日見た、No Way Backというカンパニーもそう。陽気な黒人のおっちゃんがMC。ヒューマンビートボックスに合わせてメンバーが踊る。
同じ場所では、二人の子供が、タータンチェックのキルトを履いて、リコーダーとバイオリンで演奏をしていたりもした。特にずば抜けて上手いわけではない。しかし、隣でお父さんと弟が見ていて、同じ曲を5曲ぐらい、ルーティンで何回も吹いたり弾いたり。ハリー・ポッターのテーマなんかもやる。オフィシャルの場所ではないところでバスキングをしている人だってもちろんいる。でも、聞いたところ、ちゃんと場所を選んでやればお咎めがあるわけでもない。「バスキング禁止」と書いてある看板の眼の前でやっても別に大丈夫。「そもそも看板誰が出しているのかわからないし」と言っている人もいた。
各自が、各自の裁量で、好きなことをしている、という感じがあった。それが結構、僕にとっては好ましかったのである。
なんだか、気づけばEJCの名残は僕の中から消え去っていて、エディンバラの少し冷たい空気にすっかり慣れていた。そして、もう明日にはここを発ち、夜行バスでロンドンに向かう。ロンドンではあと3日間滞在し、それから飛行機で日本に帰る。エディンバラもまた、すぐに「思い出」になるのだ。

※この文章は、以前PONTEに掲載したものです。
出典:「第446回【エディンバラ・フリンジについて少しまとめて残そうと思ったこと】16/22日目 イギリス・ジャグリングの旅2019」https://jugglingponte.com/2019/08/16/446/

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☆勝手にPM Jugglingを紹介するコーナー☆
ジャグラーという職業
https://note.com/daigoitatsu/n/n11902ac2e234
「これまでにない意味合いの「ジャグラー」という新しい仕事をつくれたら面白いな、と思う」
(記事本文より)

PM Juggling のサイト、少しリニューアルしています。
https://pmjuggling.com
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◆ジャグリングで出会うこと◆ 文・ハードパンチャーしんのすけ
第6回

先日のジャグリングレッスンのこと。
その生徒さんは、5ボールカスケードを練習中。20キャッチくらいできます。しかし、投げる時に身体のブレが大きくてつられてボールも乱れる。そこで、体幹を鍛えるエクササイズを伝えました。ちょっと身体への意識を強めると効果あり!
その時に、生徒さんが言ったのが―
「からだへの意識はなかったのですが、すごく面白いですね」

新しい発見をしたようで、からだへ意識を向けることに興味がわいたようです。
ジャグリングを通してぼくも身体への意識を学ぶようになりました。バレエを習ったり。それでバレエが踊れるようになった訳ではないのですが(残念だ)、それでも自分の財産になった時間でした。

ぼくはジャグリングを通して出会ってきました。
元来好奇心が強いタイプでなく、一つのことをじっくりと取り組むことで満足する。本を読むのは好きだったけれど、流行り物には惹かれない。
そんなぼくも、ジャグリングがきっかけで、音楽を聴くように。
学生の頃は、毎日のように渋谷に繰り出し、センター街にあったHMVに足を運んであれこれ試聴しては買い集める日々でした(今のひとには、ちょっと何を言っているのかわからない描写かもしれない)。
ジャグリングと出会わなければ、音楽の関わりは極めて薄いものだったでしょう。

また。
京極夏彦作品にどっぷりはまって読んでいました。その中に、江戸時代の芸能や曲芸に触れるものがあります。ぼくが芸能史に興味を持つことのきっかけです。ジャグリングをしてなければなかったであろう琴線です。
芸能を研究するの面白い…そこから「本を読めコノヤロウ」…ブックトークパフォーマンスを行ったり、「パフォーマンス学会」…パフォーマンスにまつわることを思い思いに語るイベントを主宰したり、はては「サーカス学会」に関わることになったのでした。もしかすると「パフォーマンス学会」がなければ、PONTEでこうして原稿を書いていないかもしれない(かつて青木編集長に登壇をお願いしたのです)。

ジャグリングを通して出会うことが、ぼくの人生に彩りを添えています。
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☆編集長の蛇足
そういえば、パフォーマンス学会への登壇の話をいただいたこともありました。
確か、ジャグリングの雑誌をやったわけを語ったんだったかな。

◆寄稿募集のお知らせ◆

週刊PONTEに載せる原稿を募集します。
800字以内でお書きください。
編集長による査読を経たのち掲載。
掲載の場合は、宣伝したいことがあればしていただけます。
投稿・質問は mag@jugglingponte.com まで。
締め切りは、毎週金曜日の23:59です。

◆編集後記◆ 文・青木直哉

-どうしても自分の原稿を書く気が起きず、以前書いたものを再掲。でも書きたいことが特にないなら、こちらの方がいい気もする。

また来週。

PONTEを読んで、なにかが言いたくなったら、mag@jugglingponte.com へ。

発行者:青木直哉 (旅とジャグリングの雑誌:PONTE)

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