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ジャグリングがつなげるもの 欧州ジャグリング紀行2018 memory no.14

 CATCH!フェスティバルは、わざわざ日本人がこのためだけにいくようなフェスティバルでは、なかったかもしれない。フェスティバルの規模は、200人ぐらい。そんなに大きくない。会場もそんなに大きくない小学校を使っている。
 僕がここへ来ることを決めたのは、伝説のジャグラー、「クリス・クレモ」も来ると聞いていたからである。ジャグリングを始めた頃から彼のジャグリングビデオは見ていて、実際に会うのがとても楽しみだった。
 さて、初日のイベントは、オープンステージ。始まる前、参加者は、狭いロビーで待機していた。僕はジャグリングをしながら待っていた。
 すると一つボールを落としてしまい、ヨレヨレのコートを着たおじいさんの元に転がって行った。その人はそれを拾ってくれて、うむ、と頷いて、また黙って待っていた。会場が開くと、一緒に待っていたアルットゥと一緒に中に入る。するとそのおじいさんもするっと一緒に入ってきて、隣でみることになった。
 隣に座ると、彼は愛想よくこっちを見て眉をくいっとあげた。どうも見たことのある顔だなぁ、とその時点でも思っていた。

 オープンステージは全部で2時間だったが、途中休憩があった。その時、やはり先ほどの愛想のいいおじいさんが隣に来た。

 思い切って尋ねてみる。
 
「あの、もしかしてクレモさんですか?」
「そうだよ。いやいや、クリスでいいよ」
 そう、そのヨレヨレの服を着たおじいさんは、僕が憧れていたクリス・クレモだったのだ。
 その後も一緒にオープンステージを見て、話をした。
「日本に行ったこともあるよ。1971年と、1989年。」
 僕は一番気になることを聞いてみた。
「まだパフォーマンスの仕事、してるんですか?」
「うん、してるよ。去年も、ヨーロッパ中を回った」

 二日目、彼のワークショップがあったので行った。
 今日も、下はスポーツジャージ、上はヨレヨレのジャケットを着ている。この人が街中で目の前にいても、クリス・クレモだとは絶対気づかないだろう。
 部屋に入ると、彼は「オハヨウゴザイマース」と日本語で言った。
 「ゲンキデスカ?」と聞いてきたので、
 「元気ですよ、あなたは?」と聞くと、ハハハァ、と笑って、肩を抱いてきた。
 クリスは、僕が思っていたような「クリス・クレモ」ではなかったが、「クリス」のことがとても好きになった。