CATCH!フェスティバルの日。フェスティバル自体は午後3時くらいから始まる。

 朝はまだマンチェスターのジョーの家にいて、昼ごろにみんなで車で出発しようか、という話だった。会場であるアップルビーは、車で北上して数時間のところにある。

 僕は街をちょっといいから見てみたかったので、少し早く起きてマンチェスターの街に出てみることにした。

 イギリスには来たことがある。でもきちんと街を探検するのは初めてでワクワクする。トラムに乗って、中心街まで行った。

 トラムの中には、都会的な顔つきをした人々に囲まれた。スーツなんかはあんまり着ておらず、自由な格好をしているけど、少し表情がかたい気がする。横浜で20年以上暮らす僕にとってはどこか親近感を覚える顔だ。

 トラムを降りると、街は少し荒れた空気があった。路上生活者も多く、みんな足早に歩いている。お互いにあまり関わりたくないな、と思っているような気配を感じる。

 朝ごはんを食べようと、事前に調べてあった北欧風のカフェ「TAKK」に行って、カプチーノとブラウニーを頼んだ。

 ブラウニーを食べながら、ふと切実にことばを送りたい気分になったので、大事な人に絵葉書を書いた。ブラウニーに負けず劣らず、カプチーノもとてもずっしりとしていて美味しかった。

 カフェを出ると、トラムの線路沿いを歩いて市立美術館まで行く。本当は外観と売店だけを見ようと思っていたのだけど、そこは入場料を取らない美術館だった。しかも平日の午前早い時間なので見物人は23人しか見かけなかった。

 中に入って、30分くらい過ごした。お金を払わずにふらっと入って、好きなものだけ見て、すぐに出てこられる、というのは、とても健康的だよな。どうもお金を払うと、「全部見なきゃ」という焦燥感にかられてしまうからいけない。

 美術館を出て、今度は図書館に行く。

 建物は荘厳で、そのへんの棚にある蔵書の奥付が19世紀だったり、夏なのに魔法使いのように大げさなコートを羽織った白髪のおじいさんが、ぼろぼろの本を小脇に抱えて歩いていたりした。

 集中して勉強ができる大きな部屋もあった。そこに入ると、咳払いにも気を使うくらい、音がしない。椅子に座って、しばらく静寂を楽しんだ。

 なぜかわからないが、その時僕の頭には、マンチェスターに長期滞在するのはどうだろう、ということが浮かんだ。

 街の見物を終えて、トラムに乗ってジョーの家に引き返した。

 トラムから見える景色は、いかにも「工業都市」という色合いのレンガの建物たちだった。

 午後になったら出発するはずだったのだが、帰って来てもまだみんなは支度をしながらのんびりしていた。