渡邉尚フロアジャグリング・ワークショップ 2016年3月24日(木)

渡邉尚とは

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©Shinya B

渡邉尚
その柔軟な身体をしたがえてジャグリング界に突如現れた、異質なジャグラーである。

昨年末に、山村佑理とのカンパニー「頭と口」による公演『MONOLITH』をおこない、ダンス、ジャグリングの双方から大きな反響を呼んだ。

その持ち味はなんといっても身体性で、もともとジャグリングをしては居たものの、本業はダンスだった。
しかし去年、偶然サーカスプロデューサーの安田尚央氏の目に留まったのをきっかけに、既にジャグリングの方では長らく脚光を浴びていた山村佑理と出会って、現在はジャグリングの世界へもどんどん活動を広げている。

彼はいま、飛ぶ鳥落とす勢いでコンテンポラリーダンス界から注目されているのだ。
今年2月には福岡ダンスフリンジフェスティバルに出演、これも引き金のひとつとなって国内外のプロデューサーの目に止まる。
世界のフェスティバルからも声がかかり、来月には早速、韓国のインプロフェスティバルに出演とのこと。また、ダンサーの登竜門でもあるトヨタコレオグラフィーアワードのファイナリストにも、今年選出された。

今回は、Monochrome Circusの一員として東京に来たのを機に、「フロアジャグリング・ワークショップ」を行う運びとなった。(PONTEが企画したわけではありません)

フロアジャグリングとは

フロアジャグリングとは渡邉尚が提唱するジャグリングの形である。
いままでのジャグリングがいわば「制空権」に特化していた、「特化しすぎていた」のと違い、彼のジャグリングは「床を使う」要素を取り入れつつ、環境すべてを使いながらモノ(たとえばボール)と関わっていくジャグリングだ。

ただ現在「ジャグリング」と呼ばれているものとは根本から違うだけに、なかなか説明しづらい。
私もこれじゃあ、わからないと思う。

そこで、フロアジャグリングワークショップでは、非常にわかりやすい形でその方法の一端を提示してくれたのだ。

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ボールの取り方のエクササイズ「一手」の最中。一番右が渡邉尚さん。

ワークショップの内容

プロジャグラーも含む8人。
車座になって和やかな雰囲気から始まり、いくつかの予備練習から入る。
ぐるぐると動きながら、相手の目を見たらボールをパスする、床を転がす、足で止める、など。
その後「一手」という練習。
円陣の真ん中にあるボールをいかに取るか。
続いて「二手」。
二つ置いたボールを、ひとつの動きで取る。

これらの練習には、従来のジャグリングで当たり前とされているような技術(カスケードなど)を一切使わない。誰にでもいきなりできることからスタートしていく。
グリッド、モメンタム、など、渡邉さんが整理した言葉でこれらの動きの説明がなされていく。
ソロの練習を経た後、今度は二人ひと組でボールを6個後ろに投げ、それを元に即興でグリッド、モメンタムの実践。観客にどう見せるかも意識しつつ、どうやってボールと身体の関係を「成り立たせて」いくか。それが問われる。

最後は半分ずつに分かれてショーイングをする。
これが面白かった。
3分程度の音楽をかけて、後ろを向いて投げた12個のボールに対して4人が一気に行動を起こしていく。確かにほぼ全員ジャグリングを長年やっているといえど、フロアジャグリングは誰もが未経験。

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しかしこれが意外と「できちゃう」のである。
自然と役割ができて、その時々で、誰に何をさせるかをなんとなく判断する。
みんなでボールを並べる、壁に一列に並ぶ、俺がソロをやる、彼女にソロをやらせる。デュオが始まったので、自分は隅で存在を消す。
言葉で考える時間はなくて、ただその場の状況、環境に合わせて身体を委ねるのみだ。
やっている方は実に楽しい。ここぞというタイミングで息があったときなど、非常な満足感を覚える。
そして見る方にしても、止まることなく一瞬一瞬有機的に変わっていく様子を見るのは実に愉快だ。

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こんなことも起きる

途中渡邉さんから「音楽を聴いて!」「環境を使って!」「まだ起きてないことをしてください!」など、言葉が飛んでくる。

各組2回ずつ見せて、時間を目一杯使ったワークショップは終わった。

フロアジャグリングは、「実践すると楽しい」

渡邉さんの提唱するフロアジャグリングのコンセプトにははっきりと根拠があって、理論がある。ただ珍しいジャグリングをしている、というだけではないことが肌で分かった。

ダンスの世界では当たり前とされているようなこともきちんと裏付けとして紹介してくれたので、説明も非常にわかりやすかった。

そして何より、実践すると、ホントに楽しいのである。

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もっとやりたい、と思った。
渡邉さんは、「ゆくゆくはフロアジャグリング合宿をやりたいですね」と言っていた。
たしかにフロアジャグリングの楽しみと深奥に触れるには2時間では到底足りない。城崎あたりで温泉に入りながら、1週間くらいフロアジャグリングの練習をみんなで毎日できたらいいのに。うむむ。■

2016年3月26日

弾丸余談

・自分で体験してみることで、頭と口のジャグリングがより面白く見られようになった。

・最近渡邉さんに紹介された、「チンロン」という、ハイレベルな蹴鞠のようなミャンマーの国技があるのだが、「参加者全員が有機体となっていくこと」を至上の喜びとするこのスポーツ(尚さんは、これを「ミャンマーでは最もジャグリングが進んでいる」と形容します)になぜ渡邉さんが強く惹かれているのか、わかった気がしました。詳しくは、また機会があった時に紹介します。というか、渡邉さんが紹介してくれるはずです。

・渡邉尚と山村佑理の哲学が読める、PONTE2015年秋号も、どうぞご購入よろしくお願いします。世界最大のジャグリング大会、EJCの記事も濃いです。1500円ですが、それに見合うだけ面白い自信があります。

取材=青木直哉
文・写真(一番上除く)= 青木直哉