キスとジャグリング。 ”If You Are a Juggler…” 書評

 

キスとジャグリング、と聞いてあなたは何を思い浮べますか?

 

 

そう、ソ連の伝説的ジャグラー、アレクサンダー・キスですね。

今回は、彼の書いた本 “If You Are a Juggler…”  の書評です。

 

2018年の2月に出たばかりの本なのにもうボロボロにしてしまった

●アレクサンダー・キスの本。

アレクサンダー・キスをご存知ですか?
筆者は正直なところ、あまりよく知らなかったです。

今回この本を読んで、キス自身のことを知ったのは何よりですが、それに加えてその他の「かつてのジャグラーたち」の姿もいくつか拾い上げることができました。

アレクサンダー・キス(1921-1990)は、旧ソ連を代表するジャグラーの一人。

サーカスアーティストであったチェコ系の父と、イタリア系の母(ロシア初期の近代サーカスを支えたガエターノ・チニゼッリの娘)の間に生まれます。

1939年から、妹のヴィオレッタと共にサーカスでのキャリアを開始し、特に1960,70年代に活躍しました。

キスは、こんなジャグラー。(下動画)

クラブが飛び出す「ぱきゅん!」という音が愉快。あと、折に触れて、トリ頭に意味もなくクローズアップするのがたまらない。

“If You Are a Juggler…”は彼の回想録。オリジナル版は1971年にロシア語で出版され、47年経った今、ジャグラー、ニルス・ダンカーの手によって英語に翻訳されました。

内容は、伝説のジャグラーたちの逸話、そして彼自身のジャグリングへの考え方などです。

●昔のジャグラーのこと

まず「『かつての』ジャグラーたち」の姿を知ることがこんなに面白いとは思わなかった。
しかも、これこれの人はこういうジャグリングをしていました、という簡単な紹介だけではなくて、どんな風に練習をしていたか(エンリコ・ラステッリ(イタリアの伝説的ジャグラー)は練習の時ボールを拾わせるために、子供を2人連れていた、とか(p.77))、ジャグラーのパーソナリティみたいなもの(エンリコは、結婚式の最中に会場を抜け出してジャグリングをしに行ってしまった、とか(p.26))達人が持つ、「ひとりの人間」としての一面が垣間見えます。

どうせ昔の人の話なんて退屈なんじゃないの、とか、思っていたんですが(なんでだろう)この本は実に面白い。

ちなみに、キスの父親は、ラステッリと共にリハーサルをしたことがあったらしい。

●キス自身の考え

第一線でサーカスパフォーマーとして活躍していたキスのジャグリングに対する考えは、今も通用する言葉で書かれてあります。

「技の準備が整ったかを判断するのは簡単だ。100回連続、自信を持って投げられるまで練習しよう。それ以上できるようになっても、余計なエネルギーを使うだけだ。しかし、マスターしていないのに、それよりも多い数に挑戦するのは、もっとだめだ。(p.79)

「ジャグラーの演技の良し悪しが、扱うものの数で判断されている節があるが、5、6個の物体で技を行うのは、8枚のリングよりも難しい。(中略)量より質、である。」

これはしかし、『量』も多く扱えたキスならではの、説得力あることば。

 

そして、ジャグリングの今風にいう「パクリ」についても、熱く語ります。

「若いアーティストが仲間の技を盗んでいるのを見かけるが、それは仲間だけではなく観客にも悪い。そして技を最初に作った人が被る被害は、他と同じようなものを人に見せなければいけなくなる、ということだ。(p.85-6)」

サーカスはアートであって、生産ラインではない。アートは、オリジナリティとユニークさで価値を測られるべきだ。(p.87)」

昔のジャグラーについて、どうしても、「みんな同じようなことをしていた」と無意識に思ってしまっている節がありました。しかしそれはとんだ誤解でした。今も昔も、「少しでも人と違うことを」という努力をしている人たちがいます。少なくともキスは「とにかく研究して、果敢に挑んで、実験をしなければ!(p.87)」と意気込んでいたんですね。

 

さて、本筋とはあまり関係がないのですが、一節だけ気になったところが。

保証がなく将来が見えない資本主義の国では、他人のアイデアを使ってしまうのも仕方がないかもしれない。(p.86)」

 

時代を感じました。この後、「我が国では探求をする環境がきちんと整っている…」と続きます。

しかし社会主義体制がとうに崩壊した今でも、生きるためのお金を稼がねばならない中で、他人のアイデアを拝借したくなってしまうジャグラー、という文脈で読めば、決して現代と無関係な話ではないな、と思う。

●本の入手について

この本は、今の所いくつかのジャグリングショップ(海外)のサイトや、大手では、アメリカのアマゾンで販売されています。翻訳者、ニルス・ダンカーのサイト(下記参照)でもチェックできます。(購入リンク先はアマゾンでした)

ジャグリングに関しては、現在手に入る本格的な文献の多くが英語やフランス語です。日本語で、ジャグリング全般や、昔のジャグラーについて書かれた文献を読める媒体というのは、実に少ない。それでも、英語に翻訳されている、というのは非常にありがたいことです。僕自身、ロシア語は(長らく習得したいとは思っていますが)読めません。翻訳者のニルスには、大・感謝です。

 

うーん、もっと日本語のジャグリングの本も、あってもいいよなぁ。

 

 

text by Naoya Aoki

参考

ALEXANDER KISS – A SOVIET JUGGLING ICON by David cain

Amazon.com “If You Are a Juggler…” (Kindle版もあります)

Special Thanks to Niels Duinker


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