第96回「文化の出身地についての考察 ジャグリングに国籍はあるのか?」

「文化の国籍」について考えた。

けん玉は日本の玩具であったが、インターネットの効果もあってか、世界中に広がっている。
いまやけん玉は「Kendama」というオープンソースになり、ヨーロッパ、アメリカでも盛んに技術を競う大会が開かれているほどだ。

そのとき、けん玉は日本のおもちゃだ、ということは意識されていないかもしれない。
確かに日本の文化として基本的には広まっていると思うのだが、ことさら「Kendama=NIPPON」が誇張される必要もないだろう。
いや、けん玉が日本のものだ、と頑なに主張するのを嫌がる人さえいるかもしれない。
私は気にならない。(まぁ、どっちでもいい、というのが本音ですが)
だが日本のものだということをあえてヨシとしない人もいる。
(最近知ったのですが、日本に特に発達したあり方として、『けん玉道』という言葉もあるようですね。こちらを参照)

しかしけん玉が日本から始まった、ということは揺るがない。
それはなぜか。
「けん玉をする」という行為(の名称)には、強制的に「けん玉」というオブジェクトが含まれているからだ。
そしてそれは、ある特定の形状をした物体を指す名詞であって、自然界に頻出するような容体ではない。
だから人工的なものだ。ゆえに一定の出身地を特定しうる。たとえそれが日本ではなかったにしても。
「液体」とか「平面」とか、絶対に国籍を持ち得ない普遍的なものではないのである。
(液体の発祥地はエジプトである、とか、ここ数年の台湾の平面は非常に良質だ、とは言い難いですよね)

つまり「けん玉」という、極めて具体的で特徴的なオブジェクトから発生したコミュニティが、けん玉愛好者の集まりなのである。

さてここで「ジャグリング」ということばを見てみる。

「ジャグラー(=ジャグリングをする人)」という定義には、オブジェクトが含まれない。
先ほどの例で出したような、いわば「液体」とか「平面」とかと同じように、「物体」を「器用に操る」というのが基本的な定義となっている。
物体は変数 x で、何に置き換えても、つまり、国籍とか時代とかに関係なく、「ジャグリング」は発生する。
「ジャグリングをする」という行為は、まさしく動作そのものを以って定義される。
ジャグリングとは、f(x)の「”f”unction=式」のほうのことなのだ。

となるとジャグリングには国籍はないはずである。
物体とそれに関わる人間が存在すれば、どんな国でも「ウチではジャグリングが昔からおこなわれている」と宣言する権利があるからである。

しかし、しかし、である。
それでも、「ジャグリングってどこの国のものなんですか?」と聞かれることがある。

ジャグリングをしている方からすると、変な質問だ。
「ジョギングってどの国のスポーツなんですか?」と聞かれているような感じがする。
「ジョギングというのは、19世紀にエストニアの人々が最初に近代的な形にしたと言われていてね…」とはならない。
走りゃあジョギングなのだ。
同じように、投げりゃあジャグリング、それでいいはずなのである。

それでも、それでも、である。
一方で「ジャグリングってどこの国のものなんですか」と聞く理由もなんとなく分かる。

まずもって”Juggling”という言葉が英単語であることがひとつ。
わざわざ日本語話者の間でさえ「ジャグリング」というカタカナ語を用いている、ということは、その語に付随する概念がなんらかの形で輸入されてきたことを示している。
そして、ジャグリングで使われている道具は、なぜかなんとなく大体において人工的であることも理由の一つだろう。
クラブなどそれが顕著で、明らかに外国から入ってきた感じがする。シゼンじゃない。
そして、物体だけではなくて、技術体系に国籍を求めることもできるからだろう。
「お手玉」と「ジャグリング」は違う、と考えている人は、たとえば上記のような「ジャグリングの国籍」を問題にするだろう。
「ジャグリング」といったら、西洋で培われた技術体系を用いてモノと対することが基本だ、と主張することも可能である。

いずれにせよ。
「ジャグリング」という語には、かように、国籍を付与されているのかいないのかよく分からない、ちょっとヘンなところがあるのである。

言葉遊びであるといえばそれまでだ。
だが「ジャグリング」という呼び名と付き合っていかねばならない以上、こういうことに関心を寄せてみると何か発見があることもあろう。

ジャグリングとは何か、と議論する前に、まずこういうところをひととおり「そうね」と思っておかねばなるまい。

文=青木直哉


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