月別: 2018年6月

キスとジャグリング。 ”If You Are a Juggler…” 書評

 

キスとジャグリング、と聞いてあなたは何を思い浮べますか?

 

 

そう、ソ連の伝説的ジャグラー、アレクサンダー・キスですね。

今回は、彼の書いた本 “If You Are a Juggler…”  の書評です。

 

2018年の2月に出たばかりの本なのにもうボロボロにしてしまった

●アレクサンダー・キスの本。

アレクサンダー・キスをご存知ですか?
筆者は正直なところ、あまりよく知らなかったです。

今回この本を読んで、キス自身のことを知ったのは何よりですが、それに加えてその他の「かつてのジャグラーたち」の姿もいくつか拾い上げることができました。

アレクサンダー・キス(1921-1990)は、旧ソ連を代表するジャグラーの一人。

サーカスアーティストであったチェコ系の父と、イタリア系の母(ロシア初期の近代サーカスを支えたガエターノ・チニゼッリの娘)の間に生まれます。

1939年から、妹のヴィオレッタと共にサーカスでのキャリアを開始し、特に1960,70年代に活躍しました。

キスは、こんなジャグラー。(下動画)

クラブが飛び出す「ぱきゅん!」という音が愉快。あと、折に触れて、トリ頭に意味もなくクローズアップするのがたまらない。

“If You Are a Juggler…”は彼の回想録。オリジナル版は1971年にロシア語で出版され、47年経った今、ジャグラー、ニルス・ダンカーの手によって英語に翻訳されました。

内容は、伝説のジャグラーたちの逸話、そして彼自身のジャグリングへの考え方などです。

●昔のジャグラーのこと

まず「『かつての』ジャグラーたち」の姿を知ることがこんなに面白いとは思わなかった。
しかも、これこれの人はこういうジャグリングをしていました、という簡単な紹介だけではなくて、どんな風に練習をしていたか(エンリコ・ラステッリ(イタリアの伝説的ジャグラー)は練習の時ボールを拾わせるために、子供を2人連れていた、とか(p.77))、ジャグラーのパーソナリティみたいなもの(エンリコは、結婚式の最中に会場を抜け出してジャグリングをしに行ってしまった、とか(p.26))達人が持つ、「ひとりの人間」としての一面が垣間見えます。

どうせ昔の人の話なんて退屈なんじゃないの、とか、思っていたんですが(なんでだろう)この本は実に面白い。

ちなみに、キスの父親は、ラステッリと共にリハーサルをしたことがあったらしい。

●キス自身の考え

第一線でサーカスパフォーマーとして活躍していたキスのジャグリングに対する考えは、今も通用する言葉で書かれてあります。

「技の準備が整ったかを判断するのは簡単だ。100回連続、自信を持って投げられるまで練習しよう。それ以上できるようになっても、余計なエネルギーを使うだけだ。しかし、マスターしていないのに、それよりも多い数に挑戦するのは、もっとだめだ。(p.79)

「ジャグラーの演技の良し悪しが、扱うものの数で判断されている節があるが、5、6個の物体で技を行うのは、8枚のリングよりも難しい。(中略)量より質、である。」

これはしかし、『量』も多く扱えたキスならではの、説得力あることば。

 

そして、ジャグリングの今風にいう「パクリ」についても、熱く語ります。

「若いアーティストが仲間の技を盗んでいるのを見かけるが、それは仲間だけではなく観客にも悪い。そして技を最初に作った人が被る被害は、他と同じようなものを人に見せなければいけなくなる、ということだ。(p.85-6)」

サーカスはアートであって、生産ラインではない。アートは、オリジナリティとユニークさで価値を測られるべきだ。(p.87)」

昔のジャグラーについて、どうしても、「みんな同じようなことをしていた」と無意識に思ってしまっている節がありました。しかしそれはとんだ誤解でした。今も昔も、「少しでも人と違うことを」という努力をしている人たちがいます。少なくともキスは「とにかく研究して、果敢に挑んで、実験をしなければ!(p.87)」と意気込んでいたんですね。

 

さて、本筋とはあまり関係がないのですが、一節だけ気になったところが。

保証がなく将来が見えない資本主義の国では、他人のアイデアを使ってしまうのも仕方がないかもしれない。(p.86)」

 

時代を感じました。この後、「我が国では探求をする環境がきちんと整っている…」と続きます。

しかし社会主義体制がとうに崩壊した今でも、生きるためのお金を稼がねばならない中で、他人のアイデアを拝借したくなってしまうジャグラー、という文脈で読めば、決して現代と無関係な話ではないな、と思う。

●本の入手について

この本は、今の所いくつかのジャグリングショップ(海外)のサイトや、大手では、アメリカのアマゾンで販売されています。翻訳者、ニルス・ダンカーのサイト(下記参照)でもチェックできます。(購入リンク先はアマゾンでした)

ジャグリングに関しては、現在手に入る本格的な文献の多くが英語やフランス語です。日本語で、ジャグリング全般や、昔のジャグラーについて書かれた文献を読める媒体というのは、実に少ない。それでも、英語に翻訳されている、というのは非常にありがたいことです。僕自身、ロシア語は(長らく習得したいとは思っていますが)読めません。翻訳者のニルスには、大・感謝です。

 

うーん、もっと日本語のジャグリングの本も、あってもいいよなぁ。

 

 

text by Naoya Aoki

参考

ALEXANDER KISS – A SOVIET JUGGLING ICON by David cain

Amazon.com “If You Are a Juggler…” (Kindle版もあります)

Special Thanks to Niels Duinker

第3便 (2018/6) ブリスベンに生きるバスカー達

 

●はじめに

私は2018年1月から、オーストラリア第3の都市ブリスベンにて、バスキングをしながら生活しています。(上写真のパフォーマーは筆者)

バスキング(Busking)とは、日本でいう大道芸のことです。バスキングを行う人のことをバスカー(Busker)と言います。バスカーは路上で芸を披露し、観客から貰う投げ銭を収入にしています。

日本ではまだ合法的に行える場所は少ないですが、オーストラリアではバスキングが合法的に仕事として認められており、路上で様々なバスカーを見つけることが出来ます。

今回の記事では、私が実際にバスカーになって気付いた、ブリスベンのバスキング事情をレポートしたいと思います。

 

●バスカー紹介

まずは、ブリスベンの中心にあるショッピングモール、Queen Street Mallのバスカーを紹介していきます。

 

●Aaron(マジシャン)

爽やかな笑顔でカードとカップの演技を得意とする現役大学生マジシャン。
私はいつも彼と交代でバスキングしています。2018年6月現在、Queen Street Mall内でサークル形式(観客を囲んでショーを行い、最後に投げ銭を貰うスタイル)のバスキングを行っているのは彼と私だけです。

 

●Konstantin(バイオリン)

アルゼンチン出身のイケメンな彼。ブリスベンシティに住んでいる人なら誰もが彼のことを知っています。

モール内を歩いていると彼の奏でる心地よいバイオリンの音色が聞こえてきます。彼は10歳の頃からバイオリンの演奏を始め、同時にバスキングを始めたそうです。彼の弟、Nikitaもまたバイオリンのバスカーで、兄弟で交代しながら演奏しています。

Konstantin のインスタグラム : https://www.instagram.com/musickonstantin/

●Wayne(バルーンアート)

彼はブリスベンの人々から、Mr.Balloon manという愛称で親しまれています。

朝から晩まで1日中バルーンアートの販売を行っています。なんと驚くことに、20年以上のキャリアがあるそうです。彼の作ってる作品はどれもマジックでペイントされており、可愛い作品ばかりです。中でもスパイダーマンは子どもたちから人気のようです。モール内には彼の作ったバルーンを持ってニコニコした子供たちが沢山歩いています。

 

●Jared (スプレーアート)

彼もまた、20年以上のキャリアがあるそうです。彼の描く絵はCGのような画風から油絵のような画風まで様々な種類があり、スプレーだけで描かれているなんて信じられません。

彼の作品は自身の公式HPからも見ることが出来ます。

続いて、シティからブリスベン川を渡って南側、South Bank Parkのバスカーです。

 

●Stuntman Jim(ジャグラー)

South Bank Parkの広場に行くと、本格派パフォーマーのバスキングを見ることが出来ます。

ブリスベンを拠点にしている彼は20年以上の芸歴があり、オーストラリアのGot Talent (編集部注:イギリス発祥の審査型バラエティ番組) にも出演したことがあるそうです。小さな自転車に乗りながらのナイフジャグリングや、高い一輪車に乗りながらのハイレベルなファイヤージャグリングは圧巻です。

次に、路上で出会ったバスカーを紹介します。

 

●Sandro(ミュージシャン)

毎日夕方5時を過ぎると、King George Square前は彼のライブステージに変わります。

イタリア出身の彼は、ピアノ、ギター、ドラム全ての楽器を演奏し、そんな彼の父は音楽学校の創設者だそうです。私の友達は彼のことを「ブリスベンのエド・シーラン」と呼んでいます。私も彼のギターの弾き語りが大好きで、バスキングが終わった後いつも聴き入っています。

 

●Mat(ジャグリング)

私がブリスベンに来て初めに出会ったバスカーです。

路上でよく見かける彼は、かなり使い込んだビーンバッグ3つでカスケードとリバースカスケードを繰り返しながら何かを喋り続けています。やっていることは大したことではないのに、不思議と彼の帽子には次々と投げ銭が入っていきます。早口で何を言っているのか分からないのですが、彼を見ていると何故か心がほっこりします。

娘が小さい頃、一緒にサーカスを見てカスケードの練習をしたことがきっかけで、2年前からバスキングを始めたそうです。私がブリスベンに来た頃、彼にバスキングが出来る場所を尋ねたところ、丁寧に紙に書いて教えてくれました。それ以来、会う度に立ち話をして、人柄の良さを感じ、一緒にバスキングをする仲になりました。最近は4ボールファウンテンに挑戦したいそうです。

●ブリスベンでバスキングをするには

基本的に路上は一部区域を除きどこでもバスキングが可能です。

しかし、ブリスベンの中心で最も人が多く集まるQueen Street MallとSouth Brisbane Parkではライセンスが無いとバスキングをすることが出来ません。

Queen Street Mallのライセンスを取得するには、2か月に一度開催されるオーディションに合格する必要があります。

オーディションの制限時間はたったの3分で、審査はかなり厳しいです。私が受けた際は約70組がエントリーしていましたが、合格したのはわずか2,3組でした。

ライセンスが発行されるとQueen Street Mall内ならいつでも好きな場所で自由にバスキングを行うことが出来ます。ただし、アンプと火気の使用は禁止されています。

違反をしない限り更新が可能で、再度オーディションを受けることなくライセンスを維持することが出来ます。

South Brisbane Parkでは、管轄に申請料を支払うことで3か月のライセンスを取得することが出来ます。どちらの区域も、バスキング内容によっては受理されない場合がるようで、私の友人はアートの販売を申請しましたが受理されなかったそうです。

これらのライセンスが必要な場所は常に安定した人通りがありますが、それ以外の路上は曜日や時間帯によってかなり変動があるためバスキングが難しくなります。

そうした背景から、ライセンスを持っていない又はアンプを使用したいバスカーはQueen Street Mall周辺の路上でバスキングをしています。

中でもKing George Squareという駅の前は人通りが多い為、夕方はバスカー達による場所の奪い合いになっています。また、ライセンス必要区域内にて無許可でバスキングをしているのが警備員に見つかると、罰金を取られるそうです。

実際に過去に罰金支払ったバスカーに話を聞きましたが、驚くほど高い金額でした。

ブリスベンに限らず、オーストラリアの主要都市ではオーディションに合格するか申請料を支払って説明会に参加することで合法的にバスキングを行うことが可能です。

 

●ブリスベンでバスキングをやってみよう

バスキングが終わると声を掛けてくれる人が沢山います。そこでコミュニティーが増えるのもバスキングの魅力の一つです。

そうして出会ったうちの一人、日本からワーホリで来たアキラ君。彼は不幸にも数日前に財布を盗まれ、次の仕事が始まるまで生活するお金が無くて困っている様子でした。ドラムが特技だったので「バスキングやってみたら?」と提案したところ、翌日には近くのレストランのオーナーに交渉して掃除用のバケツをゲット。早速バスキングにトライしてみました。

彼のドラム技術は見事で、初めて叩くというバケツでも全く問題ないようでした。1時間挑戦すると16ドル、さらに粘ったところ一晩で100ドル近く入り、無事に次の仕事にたどり着けたそうです。まさに、芸は身を助けるといったところです。

 

●まとめ

現状、ブリスベンのバスキングは他の都市に比べて難しいようです。

まず、ライセンス取得の難易度が高いこと。

メインストリートであるQueen Street Mallのオーディションは2か月に1回しかないため、新規参入が難しいこと。

また、街全体として坂が多く、道幅も狭いためバスキング出来る場所が少ないこと。

ビジネス街で観光客が少ないため、人が止まりにくいこと。

などが理由として挙げられます。
バスキングのスタイルにもよりますが、事実、過去にブリスベンで活動していたバスカーがメルボルンやシドニーに行ってしまった例が沢山あるそうです。

しかし、長いキャリアを持ち市民から愛されているバスカーも多いことから、この街に適応したバスカーのみが生き残っているようです。

ジャグラーなら誰もが一度は意識するバスキング。日本ではまだまだ認知度が低く、始める難易度も高いですが、ストリートに出るという行動はとても良い経験になります。

オーストラリアに来た際はバスキングを見て楽しむ。

 

そして、ジャグラーなら是非バスキングをやってみると良いと思います。

ブリスベンバスカー達と

 

芹川さんご自身のブログはこちら。

【公演情報】マシーン・ドゥ・シルク 7月21日(土)~24日(火)@あうるすぽっと(池袋)

photo by Loup-William Théberge

公演情報です。

池袋のあうるすぽっとは、今までにもサーカス、ジャグリング関連の公演をいくつも迎えてきました。(昨年のダブル・エクスポージャーとか。)

そして今年の夏は、カナダのケベックから、カンパニー マシーン・ドゥ・シルクが来るそうです。

僕はまだ観たことがないのですが、色々な分野のサーカスアーツが融合した、楽しいショーのようです。

欧米だと大掛かりな装置を使ったサーカスが観られる機会は比較的多いですが、日本で観られるのは、本当に貴重な機会。

そして、ジャグリングが入っていることも目を引きますが、何よりこの楽しげな独特の雰囲気に惹かれます。

photo by Loup-William Théberge

カナダ・ケベックといえば、サーカス分野の一番有名なポイントでいうと、「シルク・ドゥ・ソレイユが生まれたところ」です。

サーカス学校もあり、レベルの高いパフォーマーを多く輩出しているイメージがあります。

このマシーン・ドゥ・シルクの演技も、技のレベルの高さはさることながら、ストーリーが組み合わされて、洗練されたエンターテインメントに仕上がっている、とのこと。

音楽も大事な要素として取り入れられていて、演技中はライブで演奏をするそうです。

ジャグラーとして何か刺激が欲しい方、シルク・ドゥ・ソレイユなど有名なもの以外にも「現代サーカス」の様子を見てみたいという方、ただただ、家族や友人と一緒に、夏に何か面白いものを観たいという方、どんな人にもうってつけのはず。

日程は、2018年7月21日(土)~24日(火)。

詳細、チケット購入は、公式ページで。

また舞踊評論家の乗越たかおさんも、レビューを書かれています。(こちら


◇公演名:シアターサーカス「マシーン・ドゥ・シルク」
◇日程:7月21日(土)~24日(火)

〇演出:ヴィンセント・デュベ  〇音楽:フレデリック・ルブラサール
〇出演:ヨハン・フラデット-トレパニエ、ラファエル・デュベ、
ユーゴ・ダリオ、マキシム・ロレン、オリヴィエ・フォレ

◇発売:5月20日(日)

全席指定

・おとな 3,500円
・豊島区民割引 おとな 3,000円 ※1
・学生・中高生 2,000円 ※2
・子ども(3歳以上小学生以下) 500円 ※2
・障害者割引 2,000円 ※3

※1 豊島区民割引(在住・在勤)はとしまチケットセンターのみ取扱/要証明書提示
※2 要学生証・年齢確認証提示
※3 障害者割引はとしまチケットセンターのみ取扱/介助者1名まで同額/要障害者手帳提示
http://www.owlspot.jp/performance/180721.html
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
世界中を魅了してやまないサーカスパフォーマンスが、
カナダから初来日。5人の男たちが繰り広げる息を呑む
アクロバットやジャグリング、笑いも満載のステージです。

東京公演後には、以下日程でも他地域で公演予定。

7月 28日(土)・ 29 日(日) まつもと市民芸術館 主ホール
8月 2日(木) 北九州芸術劇場 中劇場
8月 5日(日) 小牧市民会館  大ホール
8月 7日(火)・ 8日(水)兵庫県立芸術文化センター  阪急中ホール


執筆者:青木 直哉(編集長)

書くジャグリングの雑誌 : PONTE 編集長。中学3年生の時にジャグリングに出会う。大学の卒論でアメリカのジャグラー、ジェイ・ギリガンについて書き、雑誌創刊へとつながる。最近は、ジャグリングとともに生きることについて考えている。